川崎重工業が2021年にイプシロンロケット5号機に搭載して打ち上げたスペースデブリ除去技術試験衛星「DRUMS」の消息が聞こえてきた。川崎重工初の衛星運用となったDRUMSは、姿勢制御やカメラ試験などを無事にクリアし安定して動作しており、2022年中に主ミッションである初の模擬デブリ捕獲試験を実施することが目標だという。

  • 川崎重工業が2021年に打ち上げたスペースデブリ除去技術試験衛星「DRUMS」

    川崎重工業が2021年に打ち上げたスペースデブリ除去技術試験衛星「DRUMS」(出典:JAXA)

軌道上に残った衛星の残骸やロケット上段などが化した、スペースデブリの低減が課題となっている。中でも、衛星を打ち上げた後のロケット上段は、自身で軌道離脱するシステムを持っていないため、自力で軌道降下して大気圏に再突入することができない。現在高リスクとして知られているデブリの軌道上の分布を見ると、ロケット上段のスペースデブリは、高度750km~1100km・軌道傾斜角95度~100度の太陽同期軌道に多いという。そこで川崎重工は、太陽同期軌道のロケット上段にターゲットを絞り、スペースデブリを大気圏に再突入させる「ADR(能動的デブリ除去)」を行う衛星の開発を目指している。ロケット上段を対象としたのには、衛星と異なり形状のばらつきが少なく扱いやすいことがある。

2021年に打ち上げられたDRUMSは、模擬ターゲットを用いたADRの実証ミッションだ。65kgの衛星本体からターゲット(模擬デブリ)を放出し、カメラを使って相対位置を測定し、進展ブームを用いて捕獲実証を行う。模擬デブリは、DRUMS本体に対して位置を知らせる機能や、把持しやすくするための機能を持たない。こうした物体を「非協力物体」といい、実際に軌道上にあるデブリは同じような非協力物体が多い。

DRUMSの主ミッションであるターゲット(模擬デブリ)の捕獲実証は次のようになる。

  1. DRUMS本体からターゲットを分離、放出する
  2. ターゲットから2.5m離れる
  3. 相対軌道を制御しつつ、ターゲットから8.5m離れる
  4. ターゲットから4mまで接近し、相対停止する
  5. ターゲットから2mまで直線的に接近し、相対停止する
  6. 2mの捕獲機構を進展させ、ターゲットに接触させる

DRUMSではターゲットに接触することを「模擬捕獲」と呼び、捕獲状況をモニタカメラで確認することがミッションだが、実運用段階に入れば、実際にロケット上段を捕まえなくてはならない。将来の実ミッションでは、進展機構から爪を広げ、捕獲装置でロケット上段の衛星が取り付けられていた部分(衛星分離部:PAF)を把持することを目指している。

打ち上げから約1年、DRUMSはこれまでADR実証ミッションに備えた運用を続けてきた。リアクションホイールを用いたロケット分離後の回転制御と姿勢安定化、太陽電池パネルでの発電を無事クリアし、ミッション時に模擬捕獲の確認のために使われるモニタカメラで地球を撮像するカメラ試験も無事に終了したという。同試験の運用は、川崎重工岐阜工場に地上局と管制室を設置して行われた。

ミッション実施まで時間をかけたのは、DRUMSが川崎重工にとって初の衛星運用となるためだという。11月上旬の時点ではミッション機器のチェックアウト中となっており、作業が終わればいよいよ模擬デブリ捕獲実証に挑む。DRUMSのプロジェクト期限である2022年中にはミッションを実施するのが目標だという。

  • 2021年11月、イプシロンロケット5号機で打ち上げられたDRUMSの地上での様子

    2021年11月、イプシロンロケット5号機で打ち上げられたDRUMSの地上での様子(出典:JAXA)

実証衛星での模擬デブリ捕獲では、2021年にアストロスケールが要素技術の実証に成功している。国内企業では2例目だが、多くの衛星フェアリングを製造しロケット上段の構造に知見を持つ川崎重工ならではの成果が生まれることが期待される。