ベルギーimecが主催する半導体表面洗浄・コンディショニング技術や半導体超清浄化プロセスに関する国際会議「UCPSS 2023(the 16th Symposium on Ultra Clean Processing of Semiconductor Surfaces)」が、2023年9月12-14日にかけてベルギーの古都ブルュージュで開催された。

同会議は1992年の第1回以降、隔年で偶数年にベルギー国内で開催されてきたが、新型コロナウイルス感染症の影響から、2018年の開催を最後に対面での開催が中断。2020年に開催が予定されていた15回大会(UCPSS2021)は1年延期となった上にオンライン開催に切り替えられた。そして、今年から新たに奇数年での隔年開催への変更が決まり、今回は30(+1)周年を記念する大会として、久しぶりの対面開催となり、世界中から260人余りのこの分野の専門家が参加した。

  • UCPSS 2023の講演会場の様子

    図1:UCPSS 2023の講演会場の様子 (筆者撮影)

今回のシンポジウムのセッション構成は、以下のとおりとなっていた。

  • 基調講演
  • Si、Geおよび化合物半導体の表面化学
  • 液体および空気およびウェハ表面の汚染制御
  • パーティクル除去
  • インターコネクト洗浄
  • ウェハ乾燥時のパターン倒壊
  • Gate-All-Around(GAA FET構造におけるSiGe選択エッチング
  • 誘電膜のエッチング
  • エッチングおよび洗浄のモデリング
  • ウェットプロセスの環境対策(今回新規登場テーマ)

最多となる15件の発表をして存在感をアピールした日本勢

UCPSS2023は、3日間にわたって基調講演2件、招待講演3件、一般講演(3分間講演+ポスター展示を含む)51件の講演が実施。この中で、一般講演を登壇者の所属組織の所在国別で分類すると、日本が15件、米国が9件、フランスが7件、ドイツと韓国が各5件ずつ、ベルギー、シンガポールが各3件ずつ、中国/スイス/オーストリア/フィンランドが各1件ずつとなり、欧州での開催でありながらも日本勢が存在感をアピールする結果となった。前回のUCPSS2021(オンライン開催)でも日本勢は16件の発表を行っており、国別発表件数でトップであった。

発表機関別の発表件数(2件以上)は以下の通りとなる。

  • STMicroelectronics(フランス)5件
  • SCREEN(日本)4件 
  • imec(ベルギー)3件
  • TEL America(米国)2件
  • SCREEN Germany(ドイツ)2件
  • BASF(ドイツ)2件
  • 国立シンガポール大学(シンガポール)2件
  • 延世大学(韓国)2件
  • 成均館大学(韓国)2件

STMicroelectronicsの発表はすべてフランスの拠点からの発表だったが、フランスの原子力および代替エネルギー庁傘下の国立電子情報技術研究所であるCEA-Letiの協力もあり、これまでも5件程度の発表を行ってきた。SCREENグループは、日本からの4件のほか、ドイツ法人から2件、米国法人から1件の発表を踏まえると合計7件と世界トップの半導体洗浄装置メーカーとしての存在感を示したといえる。

この国際会議の主催者であるimecは、長年にわたってトップクラスの発表件数を誇っていたが、最近は14件(2016)→13件(2018)→7件(2021)→3件(2023)と徐々に件数が減少してきている点が気になるところである。近年のimecの全体としての方向性は、より多くの顧客(研究依頼パートナー)の獲得を期待できる自動運転車・EVやヘルスケア・医学やAI・HPCをはじめとする半導体の応用研究に注力する姿勢を示しており、超微細化を指向する半導体企業の減少に伴い、研究パートナーも減少傾向にあり、imecに務める洗浄プロセス研究者も従来と比べると減っているという。imecに務めていた日本人の洗浄プロセス研究者の中には、2nmプロセスの量産立ち上げに挑戦中のRapidusに転職した人物もいる模様である。

日本からの発表は以下の15件。発表組織(テーマ)、「講演タイトル」(共著者所属組織)の順で示す。

  1. SCREEN(GAA FET形成のためのSiGe選択エッチ)、「SiGe selctive etching to enable bottom and middle dielectric isolations for advanced gate-all-around FET architectures」(独Merck,、米EDM、imecとの共著)
  2. SCREEN(Finパターン倒壊の解析)、「Insights of into FinFET structure collapse: a reactive force field-based molecular dynamics investigation」(東北大と共著)
  3. SCREEN(単分子自己整合膜による半導体面改質)、「Defect mapping and densification in self-assembled monolayers of octadecyltrichlorosilane on SiO2」(京大と共著)
  4. SCREEN(畳み込みニューラルネットワークを使ったエッチングのモデリング)、「Proposal of etch profile prediction model using convolutional neural network」
  5. 三菱ケミカル(GAA構造形成のためのSi選択エッチのシミュレーション)、「Reaction mechanism analysis of Si selective etching for gate-all –around- transistors by molecular simulations」
  6. トクヤマ(Ruのウエットエッチング)、「Alkali wet chemicals for Ru with advanced semiconductor technology nodes」
  7. 栗田工業(機能水の半導体洗浄への応用)、「Alternative dipole material wet clean by pH controlled functional water」(蘭ASM、imecと共著)
  8. オルガノ(純水中の極微量金属汚染測定)、「Online metal concentration measurement at ultra-trace level in DIW by ultra-trace level in DIW by solid phase extraction method coupled with ICP-MS」(IASと共著)
  9. 野村マイクロサイエンス(SPM代替オゾン水によるレジスト剥離)、「Eco-friendly SPM alternative resist stripping with high-concentration O3 –water technology」(東北大と共著)
  10. IAS(ウェハ上の直接金属汚染測定)、「Direct analysis of Si, SiC, and GaN wafers by LA-GED-MSAG-ICP~MS」
  11. 荏原製作所(メガソニックによるパーティクルクリーニング)、「Parametric studies on particle removal and erosion in nozzle injection megasonic cleaning」(慶應義塾大学と共著)
  12. 慶應義塾大学(超音波洗浄)、「Optimal injection distance in ultrasonic water flow cleaning」(荏原製作所と共著)
  13. ソニー(GaAs洗浄)、「Effect of post-etch wet cleaning on GaAs surfaces」
  14. 愛知工業大(二流体洗浄でのESD発生防止)、「ESD prevention technology for two-fluid pure water spray cleaning with controlled electrostatic charge」(la quaLabと共著)
  15. ダイセル(SiN表面改質)、「Silicon Nitride Selective functionalization with aqueous Cellulose」