世界中から200名を超える洗浄・クリーン化技術分野の技術者や研究者がベルギーに集まって3日間にわたって開催されたUCPSS2018の一般講演で、日本の企業や大学からの発表が9件行われた)。ただし、このうち3件は、研究協業先のベルギーimecにおいて行われたものである。

  • UCPSS2018参加者の集合写真

    UCPSS2018参加者の集合写真。世界中から200名を超える半導体洗浄やクリーン化プロセス技術者が集結した (提供:UCPSS事務局)

発表機関(企業・大学) 発表テーマ 分野
ソニー InP基板のウェット処理 III-V族基板
HF/HNO3を用いたシングルウェハエッチング ウェットエッチ
シリコン表面の微量金属の気相処理全反射蛍光X線分析(VPT-TXRF) 汚染分析
東芝 表面エネルギーを減少させてパターン倒壊防止したシリル化表面の固定電荷制御 乾燥
SCREEN 昇温オゾンガスによるウェハ表面有機物の除去 表面洗浄
希フッ酸中でのCo配線の消失* FEOL洗浄
Si GAA作成のためのSiGeとSiの選択ウェットエッチ* Si選択エッチ
栗田工業 ポストエッチCo洗浄の最適化** FEOL洗浄
静岡大学 PVAブラシスクラビングの接触領域の観察*** 機械的洗浄
表1 UCPSS2018における日本からの一般講演一覧(*はimecとの共著、**はimec/SCREENとの共著、***は荏原製作所との共著)

今回のシンポジウムでは、以下のような微細化でパターン倒壊防止の洗浄・乾燥、GAA(ゲートオールアラウンド)トランジスタ構造形成のための積層ナノワイヤ形成のためのSi(あるいはGe)/SiGe選択エッチング、BEOLでCu配線に替わるCoの洗浄など、次世代デバイスに向けた洗浄が特に脚光を浴びた。

パターン倒壊防止の乾燥法

DRAMの高アスペクト比の円柱状キャパシタ構造が、純水リンス後の乾燥時に倒壊するため、韓Samsung Electronicsでは、すでに量産工程に超臨界流体乾燥装置を導入しており、韓SK Hynixや米Micron Technologyでも導入を検討しているといわれているが、いずれも秘密裏に行われているようで、今回は超臨界流体に関する一般発表はなく、基調講演で、Gale氏が言及しただけだった。

それに替わり、今回はimecから「表面自由化エネルギーを下げるシリル化有機溶剤を微細回路パターンにスプレーしてから乾燥すると、ホットIPA乾燥ではパターン倒壊を生じるロジック回路のSTI構造(アスペクト比22)でもパターン倒壊が起きなかった」という発表があった。

乾燥後、表面被膜の除去には、プラズマエッチとUV光照射があるが、表面の酸化膜形成を比較的抑制できる点でUV照射が望ましいとしている。パターン表面を改質する方法は、すでに東京エレクトロンや東芝メモリから発表されており、これをimecがロジック回路のSTI構造で再確認する形となった。

今回、東芝メモリが発表したパターン倒壊のわかりやすい写真を以下に示す、なお、東芝メモリは、シリル化薄膜除去のためのUV照射でパターン倒壊による欠陥が増加するので、電気特性が劣化しない限り、被膜の剥離はさけたほうが良いと報告した。東京エレクトロンのシミュレーション結果では、乾燥時にホットIPAを用いたり表面改質してもパターンのアスペクト比が大きくなるにつれてパターン倒壊防止には有効ではなくなり究極的には、表面張力が生じない超臨界流体を用いざるを得なくなるという。

  • 微細プロセスにおけるパターン倒壊

    1X-nm STI構造のIPA乾燥後のパターン倒壊(左)と表面エネルギー減少のための表面改質処理によるパターン倒壊が生じない正常なパターン(右) (出典:UCPSS2018におけるT.Koide氏の予稿集)

一方、米Honeywellは、ギャップフィル・ポリマーで回路パターンを覆いパターン倒壊を防止し、あとでドライアッシングか高温ベークでポリマーを除去する手法を発表した、

さらに、東京エレクトロン米国法人およびLam researchからは、パターン倒壊に関して、実験結果に即したモデルを構築するための理論的考察結果が発表された。

GAA用ナノワイヤ形成のための選択ウエットエッチング

トランジスタ形状がプレーナーからFinFETに代わり、今後はSiやGeのナノワイヤ(あるいはシート)を積層したGAA構造へとさらに変わっていく。

SI(あるいはGe)の積層構造を形成するためには、Si(あるいはSiGe)とSiGeを交互にエピタキシャル成長したのち、SiとSiGe、あるいはGeとSiGeの選択比の高い薬液を用いてSiGeのみウェットエッチングしてSi(あるいはGe)層を残す必要である。このテーマについてSCREEN/ベルギーimec/台湾Versumから2件の報告があった。また、imec/KULからは、GeとGeSnを相互にエピタキシャル成長したのち、GeSnのみを選択的にドライエッチする方法が紹介された。

新しい配線材料Coの洗浄

エレクトロマイグレーション対策のために、WやCu配線が一部でCoやRuに替わろうとしているが、imecが、SCREEN、栗田工業、富士フイルムなどの日本勢と協業で、Co洗浄に関する発表を3件行った。

Coを希フッ酸中で洗浄すると、溶存酸素や空気中の酸素の存在でCoの消失が生ずるという。一方、最適化されたNH4OH/H2O2/water中では、Co表面に保護膜が形成されCo消失は生じることなく洗浄できたという。Ruウエットエッチングに関してはimec/KULから発表が1件あった。

学会に暗い影を落としたGlobalfoundriesの方針変更

UCPSS2018では、米Globalfoundries(GF)から3件の発表が行われるはずであったが、すべて無断キャンセルとなった。

6月末までに論文集に掲載する論文は提出されていたが、8月末に、同社は微細化を14/12nmまでにとどめ、それより先の研究や製造は無期延期(事実上中止)すると発表し、すでに先端研究開発部門を閉鎖、多数の社員を解雇した模様で、その影響がUCPSSのような学会活動にも出た形となった。

GFは、かつては、IBM研究開発センターの技術支援で7nm以降は先端グループ(TSMCやSamsung)と肩を並べようと10nmをスキップして、IBMの協力も得て7nmプロセス開発に取り組んできた。

EUVリソグラフィの生産導入も準備していたようだが、7nm以降の微細化製造技術の実用化のめどが立たず、大本を同じくするAMDがTSMCに製造委託することを決めてしまったため、急速に地盤低下してしまったようである。

世界的に微細化研究を継続できるプレーヤーがますます減ってしまい、GFを技術支援するとともに先端研究を行っているIBMの今後の動向が注目される。

なお、次回のUCPSSは2020年にベルギー国内で開催される予定である。その前に、米The Electrochemical Society(ECS)主催の16th International Symposium on Semiconductor Cleaning Technology and Science(SCST2019)が米国アトランタで2019年10月に開催される予定である。