2年に1度のクリーン化技術の学会が欧州で開催

半導体表面洗浄および超クリーン化プロセス技術に関する国際会議である「14th International Symposium on Ultra Clean Processing of Semiconductor Surfaces (UCPSS2018)」が、2018年9月3~5日にベルギーのルーヴェンで開催された。同地は、1425年創立の欧州屈指の名門ルーヴェンカトリック大学(KU Leuven)や1984年設立の世界トップレベルの半導体ナノテク研究機関であるimecの本拠地として知られている。

  • ルーヴェンカトリック大学のホール

    UCPSS2018が開催されたルーヴェンカトリック大学(KU Leuven)のホール

UCPSSは、米国電気化学会(Electrochemical Society:ECS)が隔年に米国で開催している半導体洗浄技術国際シンポジウム(International Symposium on Semiconductor Cleaning Science and Technology:SCST)と交互に欧州で隔年開催されているシンポジウムである。

第1回会議が1992年にベルギー ルーヴェンで開催されて以来、偶数年にベルギーのフランダース地方の各地で開催されてきたが、14回目を迎える今回は、26年ぶりに再びル―ヴェンに戻っての開催となった。今回の会議には世界中から217名の洗浄およびクリーン化プロセス技術関連の企業・大学研究者や製造装置・材料メーカーの関係者が一堂に会し、次世代半導体向けの洗浄技術を中心に活発な議論が行われた。

会議は表1に示すような12セッションで構成され、オーラル講演44件(基調講演・招待講演を含む)、ポスター発表10件の合計54件の発表が行われた。国別では、地元のベルギーが15件と最も多く、次いで日本10件、米国9件、韓国およびフランス各5件、台湾、イタリア、ドイツ各2件、その他4カ国各1件となっている。この分野は、まだ、日本が製造装置も技術も世界から注目されている数少ない分野である。

発表機関(企業、大学)別の発表件数(登壇者の所属で分類)では、地元のベルギーimecが13件、STMicroelectronicsが5件、SCREEN、ソニー、韓国延世大学が各3件と目立った存在となっていた。imecの発表のうち、9件はKU Leuvenはじめ他機関との共同発表、SCREENの発表のうち2件はimecと共同発表である。

第1日 第2日 第3日
1. 基調講演 4. III-V族半導体の表面準備 10. 相互配線工程のクリーン化
2. 表面洗浄および機能化 5. SiおよびGeエッチング 11. 太陽電池のウェットプロセス
3, 濡れ性、乾燥、およびパターン倒壊 6. ナノワイヤ形成のためのSi、Ge選択エッチング 12. 汚染計測および制御
ポスター展示発表 7. GAAゲートスタックプロセス
8. パーティクルの機械的除去
9. 非半導体薄膜のエッチング
表1 UCPSS2018のセッション構成

CMOSイメージセンサに必要な厳しい金属汚染制御

開催前日の9月2日には、チュートリアル(教育プログラム)が開催され、以下のような講演が行われた。

  1. Si(Ge)材料およびデバイスのメタル捕獲中心の電気的振る舞い(ベルギーimec、ベルギーGhent大学)
  2. メタル汚染の化学的影響およびその除去(STMicroelectronics)
  3. 洗浄技術の基礎(ベルギーimec)
  4. 半導体表面の化学と表面終端(米アリゾナ大学)
  5. 半導体表面のバイオ機能化(Bio-functionalization)(ベルギーimec)

上記のチュートリアル1と2は、半導体デバイスに影響を与える汚染物質のうち、金属汚染に関する講演だった。CMOSイメージセンサやDRAMをはじめとする半導体デバイスではSi表面の金属汚染だけでなく、Si基板に侵入する金属汚染の制御の重要性が高まっている。

とりわけCMOSイメージセンサは金属汚染に敏感で画面上の白点の原因となるため、Si表面の金属汚染レベルを他デバイスよりも厳しく107原子/cm2程度まで制御する必要があるといわれている。

このために精密洗浄による金属汚染除去が必須である。Si基板内に侵入した金属不純物は、電気的に活性となり、電気的特性に悪影響を与えるので、適切な方法でゲッタリングする必要がある。imecでは、次世代イメージセンサを研究しており、STMicroekectronicsでは、実際にCMOSイメージセンサを製造・販売している関係から、両社とも金属汚染に関心が高い。

講演者の1人であるSimon教授は、ソニーのイメージセンサ研究開発チームとも共同研究をし、論文を共同執筆している。STMicroelectronicsの講演者Garnier氏は同社イメージセンサ製造ラインの金属汚染研究者である。

また、チュートリアルの3と4は、半導体洗浄の基礎的な理解に関する内容で、文字通り教育的内容である。

バイオセンシングのための半導体表面機能化に脚光

チュートリアルの5「半導体表面のバイオ機能化」 は、DNAやたんぱく質、糖鎖といったバイオ分子をシリコン基板上に多数固定した、いわゆるバイオセンサにおいて、バイオ受容体を基板に方向をそろえて固定したり、方向を制御し、固定配列を空間制御できるようにするためにシリコン表面を機能化するための処理法についての解説である。このバイオ受容体とシリコン基板に形成したトランスデューサーを組み合わせたものがバイオセンサである。

UCPSS2018の第1日目にも、オランダWageningen大学のHan Zuilhof教授がバイオ受容体を共有結合でシリコン基板上に固定化するための表面機能化について招待講演を行った。

ヘルスケアや医学研究、新薬開発などのために、半導体微細化技術とバイオ技術の融合が注目されており、この分野は今後の半導体洗浄(最近、「洗浄」は「表面準備」あるいは「表面コンディショニング」といわれるようになってきている)の新たな応用分野として注目を浴びている。

imecでも、微細化研究が近い将来終焉を迎えそうなため、微細化の他分野での活用や半導体のアプリケーションに力を入れており、従来先端シリコン基板洗浄を研究していた研究者の一部がこの分野で活躍している。UCPSSオーガナイザーのPaul Mertens氏(imec)も「今後、半導体微細技術を活用したバイオ分野からの発表が増えることを期待している」と話している。

2回目となる次回は、UCPSS2018で注目された講演について紹介したい。

(次回は9月20日に掲載します)