本連載では4回にわたって、クラウドサービスを提供する使えるねっとのサービスやインフラについて紹介してきた。エンドユーザの視点に立ったサービスを展開する使えるねっとのクラウドサービスは、パラレルスのクラウドビジネス提供基盤とその技術によって支えられている。今回はこの技術について、パラレルスの土居昌博氏に話を聞いた。

クラウド基盤を提供するパラレルス

パラレルス 取締役 土居昌博氏

パラレルスというと、Mac上でWindowsソフトを使うための仮想化ソフト「Parallels Desktop for Mac」を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。しかし実際は、サーバ仮想化ソフト「Parallels Virtuozzo Containers(以下Parallels Containers)」や、クラウド運用の自動化のための「Parallels Automation」などのサーバ分野の製品を主力としているソフトウェアベンダーだ。「Parallels Desktop for Mac」は、仮想化技術のコンシューマー向け製品というわけだ(実は同社の社名はもともと「SWsoft」だったのだが、2008年から、子会社だったパラレルスの社名を親会社も採用している)。

連載2回目でお伝えしたが、使えるねっとのクラウドサーバには、パラレルスのサーバ仮想化ソフト「Parallels Containers」が導入されている。「Parallels Containers」はコンテナ型の仮想化ソフトで、高集積率かつハイパフォーマンスで、世界のデファクトスタンダードであることが売りだ。事実、「Parallels Containers」は、米国Tier1 Research社の市場レポート「MASS-MAEKET HOSTING WINTER 2011」のVPS Market Share部門で、トップホスター50社中でシェア1位(36.7%)を記録している。

一般的にコンテナ型は、仮想マシンを作成するハイパーバイザー型に比べると、1台の物理マシンに対するサーバ集約率が高い。中でも「Parallels Containers」の集約率はハイパーバイザー型に比べ2~10倍の集約率となっている。当然ながらクラウドクラウドサービスでは1台の物理マシンを効率よく運用する必要があるため、「Parallels Containers」は最適な仮想インフラといえる。多くの企業に支持され採用されているのも納得できる。

主要50クラウドサービス社のVPSマーケットシェア (資料:Tier1 Research社「MASS-MAEKET HOSTING WINTER 2011」)

自動化のための専用ツール「Parallels Automation」

パラレルスが提供するのは、サーバ仮想化の技術だけではない。様々なサーバ製品がある中で注目すべきなのが、クラウドサービスに必要な運用管理を自動化するためのツール「Parallels Automation」だ。

クラウドでビジネス展開するには、「どのようなサービスメニュー(商品メニュー)を用意し、それらをいくらで提供するか」「多数の顧客のアカウント管理や注文をどのように受け、どのようにリソースを割り当てるか(プロビジョニング)」「課金管理や契約管理をどのようにするのか」など、運用や管理のために行わなければならない様々な業務がある。さらに中小企業向けのクラウドサービスで事業を成立させるためには、単価を抑え、提供サービス数を増やさなければならない。

数百、数千、数万のユーザを抱えるクラウドサービスでは、膨大な数のユーザへのサービス提供を1件ずつ管理するには大きな負荷がかかるため、どのように手間をかけずに効率的に運用できるかが鍵となる。

「Parallels Automation」は、クラウドサービス者の運用管理に特化した自動化ツールだ。プロビジョニングや課金管理など、多くの業務の自動化を実現できる。

サービスプロバイダにとっては「自動化できることは自動化して、どのようなサービスを提供するか」といった商品戦略に注力することが重要だが、他社と差別化できない運用管理業務の大半を「Parallels Automation」で自動化すれば、それが可能になるわけだ。

「Parallels Automation」でできること

さらに「Parallels Automation」は、他社が提供しているクラウドサービスとの連携、ERP・CRMといった既存の社内システムとの連携、ドメインや電子証明書の取得などまで、幅広い領域の業務自動化に対応する。

使いやすいコントロールパネル

パラレルスのツールは、わかりやすいコントロールパネル画面で操作できるのも特徴だ。コントロールパネルは、ブラウザ上で動作するWebアプリケーションとして提供され、プロビジョニングなどの煩雑な設定をプログラムレスの簡単な操作で実行できる。連載1回目で触れた使えるねっとのGUIベースの直感的に使いやすいコントロールパネルは、パラレルスを採用したものだ。

「サービスプロバイダのマーケティング担当者が、コントロールパネルを操作するだけで商品を開発できる」(土居氏)というように、商材開発と設定を同時に行えるのは、マンパワーの少ないサービスプロバイダにとってはうれしい機能だ。

コントロールパネルは、クラウドサービスを提供するサービスプロバイダ向けのものだけでなく、サービスを購入したエンドユーザ向けのものも用意されており、エンドユーザが設定を変更することも可能だ。さらにリセラー(代理店)向けの画面も用意されているので、幅広い事業展開も実現できる。

ユーザーの属性に応じた使いやすいコントロールパネルを用意

ここではすべての機能について紹介することはできないが、仮想化ソフトから運用管理まで、パラレルスにはクラウドサービスを展開するためのツールがほぼすべて揃っている。しかも、すべてを同社の製品で運用する必要はなく、既存のシステムにパラレルスのツールを付加することも可能だ。

土居氏によれば、「当社は中小企業向けのホスティング事業者をはじめとするサービスプロバイダに対して圧倒的な強みを持っており、9割のサービスプロバイダが何らかの当社ソリューションを使っている」とのことだが、もちろん、これまでに紹介した使えるねっとのサービス提供基盤も「Parallels Automation」や「Parallels Containers」をはじめとしたパラレルスのソリューションによって支えられている。

これからクラウドサービスを始めるために

クラウドのサービス提供基盤をエンド・ツゥ・エンドで自動化する「Parallels Automation」は、同社によるコンサルティングやトレーニングも含め、最短で3ヵ月程度で導入可能だ。機器やソフトウェアの導入だけでなく、事業化するまでのワークフローが一体化されていることを考えると、相当なスピードと言えるだろう。もちろん、コントロールパネル、仮想化ソフトなどの単体であれば、導入はもっと早い。

土居氏は、クラウドサービスをレストラン事業にたとえて話してくれた。

「レストランを開業するには、店舗や内装、外装、厨房設備、メニュー作成、雇用など、様々な要件をクリアしなければならない。ほとんどのITベンダーが提供できるのは "厨房設備" だけ。当社は、この "厨房設備" を使って料理(サービス)を顧客に提供するまでのワークフロー全体を自動化できる」

"厨房設備" や多数の顧客といった "基盤" を有している企業であれば、パラレルスのツールを導入すればアイデア次第でクラウドを使った新しいビジネスを迅速にスタートすることができる。OA機器メーカーなど異業種がクラウド事業に参入し始めているように、この流れは国内でもすでに現実のものとなっている。

パラレルスは、これからクラウドサービスを開始しようと考えているサービスプロバイダ向けに、クラウドでのサービス提供の全貌を明らかにする「クラウドサービス事業者のためのブループリント」という冊子を無償で提供している。これはクラウドサービスを運用するための指南書として役立つだけでなく、その内容から新たなビジネスのヒントが見つかるかもしれない。興味がある場合は同社に問い合わせてみてほしい。