どこの業界でも、「競争がない独占状態だと、企業がそれにあぐらをかいて価格が高止まりしたり、サービスの質が向上しなかったりする」などと言われているが、その通りになるかどうかは状況次第。

しかし、すでに競争が存在する場面では、確かに価格やサービスなどの競争が起きるものである。それは結果として消費者・利用者にとっての利益につながるが、度が過ぎると総倒れになって三方一両損である。

なぜボーイング787は岡山・広島線に決まったのか?

全日空が国内線におけるボーイング787ドリームライナーの運行計画を発表した際、ある航空雑誌の編集長に「どうしてまた岡山や広島なんです?」と訊かれた。言うまでもなく、国内線のメインラインと言えば、千歳・福岡・沖縄あたりというのが共通認識だろう。せっかくの新型機だというのに、そういうメジャーな路線を外して岡山や広島に飛ばすというのは、確かに腑に落ちない話に思える。

それに対する筆者の回答は単純明快――「新幹線との競争が最も激しい区間だからですよ」

試験飛行で日本に飛来したボーイング787。この時は地上施設との適合性などを検証するため、岡山・広島を含む国内各地の空港に飛んだ。その試験飛行の日程を公表したのも、宣伝の一環と言える

国土交通省の統計資料などを調べれば一目瞭然だが、新幹線と航空機のどちらが優勢になるかという分界点は、新幹線の所要時間が4時間程度のラインにある。そして東京を起点にすると、その分界点は広島である。広島と比べると新幹線のほうが優勢だが、岡山でも飛行機と新幹線のつば競り合いが起きているのは同じだ。

だから、話題性が高い新型機・ボーイング787を活用して利用の増加につなげることで新幹線に対して優位性を得る狙いから、東京-岡山線と東京-広島線にボーイング787を飛ばすのだろう、と説明した。これで、たちまち納得してもらえた。

しかも、ボーイング787の運航時刻を見ると、どちらかというと搭乗率が低そうな早朝・夜間のフライトに充てている。うがった見方をするならば、これも底上げ効果を期待してのことかもしれない。

同じように「所要時間4時間のライン」で競争を展開している区間として、「大阪-鹿児島間」がある。もともと飛行機が圧倒的に強い区間ではあったが、九州新幹線の全線開業で事情が変わった。新幹線が朝夕に、停車駅を減らして速達化を図った「みずほ」を投入したのも、「4時間の壁」を切って飛行機に対する優位性を確保しようとしたためである。

かように、競争が激しいところは飛行機であれ新幹線であれ、力が入るものである。

運賃割引が多発するのも競争が激しいところ

機材・接客設備・サービスといった分野だけでなく、運賃の面でも同様に、競争が激しいところほど割引サービスが多発する傾向がある。ただし交通業界の場合、単純にベース価格を引き下げるのではなく、ベース料金はそのままで「条件付の割引商品」を追加することが多い。条件としては、以下のようなものが挙げられる。

  • ネット限定、チケットレスサービス限定
  • 対象区間限定
  • 発売数量限定
  • 早期購入限定
  • 後日のキャンセル・区間変更不可
  • まとめ買い(回数券などの形をとる)

こうした制約が受容可能なものであれば、割引商品を活用することで安価な移動が可能になる。筆者は先日、常磐線の特急「スーパーひたち」で勝田まで往復してくる用事があったのだが、この時も「ひたち往復きっぷ」なる割引切符を利用することで、本来なら8,040円かかるところが7,000円で済んだ(普通車指定席利用。グリーン車用もある)。

常磐線を走る「スーパーひたち」。割引切符を利用することで、通常価格よりも安価な移動が可能になる一例

交通機関同士の競争が発生する場面としては、同じジャンルの交通機関同士、例えば「JRと民鉄の競争」、「バス会社とツアーバスの競争」といった組み合わせもあれば、異なるジャンルの交通機関による競争もある。ただし、異なるジャンルの交通機関による競争では、所要時間や定時性などの面で条件が違ってくるので、単に料金やサービスだけでなく、それ以外の要素がもたらす影響が増える。

よって、ジャンルが異なると、競争の要素として価格が占める割合は減ってくることが多い。つまり、「少し高いけれども、定時性や速達性に優れる」とか「時間がかかるけれども安い」といった具合になるわけだ。

新幹線や飛行機が大量に行きかっている東京-大阪間で、いまだに高速バスが結構な数を走らせているのも、絶対的な需要の大きさだけでなく、「遅くてもよいから安いほうがよい」という需要があるためだ。

そういう場面では、価格だけでなく、接客設備やサービス、あるいは前述したボーイング787みたいに「新型導入」なんていう御利益がついてくるわけだ。価格競争だけだと、なかなかこうはいかない。

いずれにせよ、牛丼業界のような値引き大会になってしまうと企業体力勝負の消耗戦になり、ヘタをすると総倒れということもあり得る。要は程度の問題なのだが、ライバルがいなければ値引きやサービス改善を仕掛ける動機が乏しくなるのも、事実ではある。もっとも、交通業界の場合、実際に総倒れになるところまでエスカレートしないことがほとんどではあるが。