船は話が違うので措いておくとして、鉄道・バス・飛行機のいずれにも2階建てのモデルがあるので、今回はその話を。「ナントカと煙は高いところに登りたがる」なんて言われている、例えば出張の足として利用する場合は、1階と2階のどちらがベターなのだろうか?
乗ってしまえば同じ?
しばらく前の話になるが、筆者の父が海外旅行に行った時に「せっかくだから、1度ぐらいは乗っておきたい」といって、オール2階建ての巨大旅客機・エアバスA380のフライトをわざわざ選んで利用したことがあった。そして、旅先から絵葉書が届いたら、そこには「乗ってみたら普通の飛行機と大して変わらなかった」と書いてあって爆笑した。
飛行機の場合、胴体断面形状の関係で1階のほうが2階よりも広いという程度の違いはあるが、2階だから特に眺望が良いというものではないし、接客設備の違い以外の差を感じにくいのは仕方がない。エアラインにとっては、収容力が増えるメリットがあるが。
では、鉄道やバスはどうか。
鉄道でもバスでも、2階の方が騒音発生源から遠いので静粛性が高い。これは2階席の明白なメリットである。1階席が普通車、2階席がグリーン車、というレイアウトをとる車両が多い理由のひとつがこれだ。
車内で仕事をしたいとか、あるいは打ち合わせをしたいとかいう場面では、静粛性が高いに越したことはない。もっとも、打ち合わせをする場合は他の乗客の迷惑にならないように配慮して、という但し書き付きではあるけれど。
また、地面の上を移動する交通機関の場合には、少なくとも眺望の面では間違いなく2階の方が得である。特に新幹線では、沿線の騒音被害を防ぐために防音壁を立てているので、1階席、あるいは平屋の車両だと、これが案外と車窓の妨げになる。ところが2階席なら防音壁は問題にならない。
こうした事情があるため、一般的な傾向として2階のほうが1階よりも人気がある。もっとも、観光旅行で利用するものならともかく、仕事の往来で利用する時はそう車窓ばかり楽しんでもいられないだろう。
それに、時間帯によっては外が真っ暗で、車窓も何もあったものではない。上越新幹線のようにトンネルだらけだと、せっかく2階席に乗っても多くの区間で車窓は闇なんてことも起きる。それでは1階席も2階席も変わらない。
だから、すでに何回も乗っていて勝手がわかっているとか、利用区間や時間帯の関係で外が真っ暗だからという場面で、意図的に不人気な1階席を選択すると、空席を確保しやすい可能性がある。これは指定席でも自由席でも同じだ。
また、不人気を補うために1階席の接客設備に工夫を凝らしている場合もある。だから、2階席の静粛性や眺望を諦めるのと引き換えに、追加料金なし、あるいはわずかな追加料金でスペースの余裕や快適性を手に入れられるかもしれない。
例えば、小田急線の新宿から御殿場線経由で東海道線の沼津まで走っている特急「あさぎり」は、3・4号車が2階建てで、2階がグリーン車、1階が普通車である。ところが、設計上の理由により、この普通車は座席の前後間隔がグリーン車と同じなので、他の普通車よりもゆったりしている。ということは、普通車の料金のままでグリーン車並みの前後方向の余裕を手に入れられるわけだ。
バスの場合には事業者や路線によって違いがあるが、JRバス関東の夜行バスを例にとると、1階席に左右1列ずつの「プレミアムシート」を配して、2階席は一般的な独立3列シートになっている車両がある(参考 : JR BUS MUSEUM - ジェイアールバスミュージアム)
1階と2階で乗降の迅速さに差がつくことも
ただ、スムーズな乗降ということになると、特にバスでは差がつく。バスの2階建ては正に「1階」と「2階」であり、まず1階から乗り込んでから狭い階段を登って2階の客室に移動する。しかも1階より2階のほうが座席が多いので、2階はどうしても乗降に手間取る傾向がある。
では、鉄道はどうか。日本の鉄道はホームの位置が高いので出入台は車端部にあり、そこから階段を登れば2階席、階段を下れば1階席となる。ホームを基準にすると、実態は「中二階」「半地下」だから、どちらも乗降の手間に大差はない。つまり、迅速な乗降を重視するのであれば、バスなら1階のほうが有利と考えられるし、鉄道ならお好みでという話になる。
なお、新幹線は話が別だが、それ以外の2階建ては(バスも含めて)室内高に余裕がないことが多いので、その場合には荷棚を設けていない。すると、あまり大きな荷物でなくても置き場に困ることがある。高速バスは大きな荷物を床下のトランクに入れてもらえるが、列車は大型荷物の置き場がある車両とない車両があるので、後者の場合に大荷物を抱えていると問題である。新幹線以外の2階建てでは注意したいポイントだ。