新幹線でも、東海道・山陽、東北・上越・長野でシートピッチが違う
鉄道・バス・飛行機など、座席を並べて設置する乗り物には「シートピッチ」という数字がつきものだ。シートピッチとは、平たく言えば「座席の前後間隔」のことで、数字が大きいほどゆったりしている。鉄道ならグリーン車と普通車、飛行機ならファーストクラス・ビジネスクラス・エコノミークラスと見比べてみると、意味するところは一目瞭然だろう。
飛行機の座席はちょっと特殊で、機体の床面に前後方向に取り付けたレールに座席を固定してある。そして、必要に応じてシートピッチを変えられるようになっており、同じ座席のままでも、シートピッチを詰めて多くの人を乗せられるようにしたり、その逆を行ったり、といった作業が容易に行える。そのため、座席と窓の位置が合わないことがしばしばある。
これに対し、鉄道は基本的に座席と窓の位置を合わせることになっているので、車両を設計した時点で決めたシートピッチがそのまま使われるのが普通だ。国鉄時代には、普通車なら910mm、グリーン車なら1,160mmと決まっていたから、250mmの差があったわけだ。これは靴ひとつ分の長さだから、この差は結構大きい。
ところが1980年代ぐらいから、普通車のシートピッチがだんだん広がってきたので、話がややこしくなった。特に新幹線100系(1985年登場)では、3人掛けの座席を回転できるようにするためシートピッチを1,040mmに拡大しており、普通車としては有数の広さとなっている。これはいささか極端だが、現在では普通車のシートピッチは940~980mm程度が多いようだ。
ちなみに新幹線の場合、その3人掛け座席の問題があるため、東海道・山陽新幹線の普通車は1,040mm(500系は1,020mm)を維持している。ところが、東北・上越・長野新幹線の普通車は980mmで、何と60mmも狭い! それでも、座席の構造に工夫を凝らし、シートピッチを広げなくても回転できるようにしてある。背ズリが既定の状態で直立しているのは、そのささやかな代償である。
なお、東北新幹線の新型車両・E5系ではシートピッチを1,040mmに拡大しており、これで東海道・山陽新幹線と同等になる。将来、東北新幹線は在来線に直通する車両を除いてすべてE5系に統一される予定なので、それが実現すれば現在よりもゆったりできるだろう。
元・自由席車の指定席車は「ハズレ席」
一方で、通常よりも狭い思いをしてしまう席もある。
JR東日本では、指定席車と自由席車の差別化、さらに自由席車の収容力増加といった狙いからだろうか、指定席車と自由席車でシートピッチを変えていた時期があった。その時期の産物である「こまち」用のE3系電車は、自由席車が910mm、指定席車が980mmと、シートピッチが70mmも違う。「つばさ」の一部列車で使われているE3系1000番台も同じだ。
「つばさ」は今も自由席車があるからよいが、問題は運転開始後に全車指定席に変更した「こまち」だ。設定を変えたからといって、座席の配置までは変わらない。そのため、「こまち」用E3系のうち、元・自由席車の15・16号車は、他の普通車と比べるとシートピッチが狭い。「同じ指定席料金を払っているのにナゼ?」と思うが、座席の配置替えは大仕事なので致し方ない。
逆に、E3系が「なすの」に用いられる場面などで普通車が全車自由席ということになると、同じ普通車自由席でも、本来は指定席の車輌(12~14号車)は15~16号車よりもシートピッチが広く、ゆったりしていてお得ということになる。
なお、その他の座席も含めたシートピッチ関連の話については、拙著『車両研究で広がる鉄の世界』(秀和システム刊)で詳しく書いたので、御一読いただければ嬉しい。
広いシートピッチのメリットは「ゆったりできる」だけじゃない
特に小柄な方にしてみれば、「そんなに座席の前後間隔ばかり広くなっても……」と思われるかもしれない。しかし、シートピッチの拡大には、単に脚を伸ばしてゆったりできる以外にもメリットがある。
例えば、旅行の荷物をキャリーバッグに入れて持ち歩く人は少なくないが、ちょっと大きめのキャリーバッグになると、荷棚に上げたり降ろしたりするのは意外と大変だ。では、それを足下に置いてはどうかという話になるが、そうすると足下のスペースが問題になる。ここで、シートピッチ1,040mmと980mmの間の60mmの差が生きてくる。
もちろん、足下にキャリーバッグを置けば、脚を前方に投げ出すことはできなくなるが、まったく身動きがとれなくて困るというほどでもない。もっとも、東北新幹線の車両のうちE2系・E3系ならデッキに大型荷物置場があるので、嵩張る荷物はそちらに置いてしまう手もある。