最近は充実している階段位置の情報提供
昔と違って、ホームの掲示や車内液晶TVといった手段で、どの駅ではどの号車の近くに階段・エスカレーター・エレベーターがあるかを知らせていることが多い。東京メトロのように、「○○線に乗り換えるなら△△号車が近い」という形もある。
実は、電車の追い越しは線路の上だけでなく、ホームでも発生する。遠くの階段や改札口まで歩いて移動している間に次の電車が到着して、そちらから降りてきた人のほうが先に駅の外に出てしまうかもしれないからだ。
そうした事態を避けるには、階段や改札口に近い車両に乗っておくほうがムダがない。実際、通勤・通学で毎日のように同じ路線を利用する人は、降車駅で階段や改札口が近い車両を選んで乗っているだろう。
ところが、主要ターミナル駅で階段や改札口に近い車両はどうしても混雑度が高くなる。改良工事が行われる前の某線某駅では、行き止まりになったホームの端にだけ改札がある関係で、そちら側の先頭車が特に混雑していた。逆に、わざと階段や改札口が遠い車両を選んで混雑を避けるのも1つの手ではあるが。
理想を言えば、駅ごとに階段や改札口の配置を振り分けられるとよいのだが、用地や他の建物・構造物との兼ね合いといった外的制約要因が多すぎて、そんなところまでは考慮できない。
混雑度の差と接客設備の微妙な関係
実は、この「車両ごとの混雑度の差」がいろいろなところに影響を及ぼしている。
例えば、女性専用車だ。一般的に、女性専用車は混雑度が低い車両を対象とする場合が多そうだ。利便性が高く、その分だけ混雑度が高い車両を女性専用車にすれば、「優遇しすぎだ」といって顰蹙を買いかねない。もっとも、混雑する車両ほど痴漢が出やすい傾向がありそうなので、鉄道事業者にとっては判断が難しいところ。
路線によっては多扉車両を連結している場合があるが、これは混雑度が高い車両を選んでいる。山手線では7号車と10号車に6扉車を連結しているが、この2両の混雑率が高く、多扉化によって乗降時間の短縮を図りたい事情があるからだ。もっとも、ホームドア設置に伴って6扉車の連結は取り止めることになった。
東京メトロ日比谷線では、8両編成のうち両端の2両ずつを5扉車にした編成があるが、これも考え方は同じで、混雑度が高い車両を多扉化している。さらに、5扉車を含む編成を混雑度が高い列車に集中投入している。
また、首都圏の一部路線では同じ編成の中にロングシート車とクロスシート車が混在しているケースがあるが、これは混雑度が低いところにクロスシート車を配置している。正確にはロングシートが混在したセミクロスシート、しかもクロスシートは扉間に片側1ボックスずつしかないのだが、それはともかく。
乗降を円滑にするにはロングシート車のほうが適しており、地元の通勤通学客にも好まれる傾向がある。しかし、長距離客、特に日常的に利用するわけではない他所者はクロスシート車を好む傾向がある。ロングシート車では「旅の気分」が出ないし、車内で駅弁を広げるのも躊躇してしまう。
そうした矛盾する需要を両立するために、混雑度が低い車両を選んでクロスシートを設けているのだろう。具体例を以下に示す。
- 東北本線・高崎線のE231系(1・2号車、14・15号車)
- 東海道線のE231系・E233系(1・2・9・10号車、14・15号車)
- 東海道線のE217系(9・10号車、14号車)
- 横須賀線・総武快速線のE217系(9・10・11号車)
- 常磐線のE531系(1・2・9・10号車、13・14・15号車、ただし一部編成の9号車はロングシート)
- 内房線・外房線・東金線・成田線・鹿島線・総武本線の209系(運転台付きの車両のみ)
混雑度が低い車両を選んでクロスシート車にすると、そうした車両は主要ターミナル駅で階段や改札口が遠い可能性が高くなる。しかし、自分が利用する駅が常に主要ターミナル駅とは限らないし、場合によってはクロスシート車の方が便利ということもあるだろう。場面によって賢く使い分けたい。
とはいえ、首都圏在住の立場からすると、全席転換クロスシート車が当たり前のように使われている札幌・名古屋・京阪神・福岡辺りが羨ましいというのも本音だ。