前回の続きです。
Fくんは道すがら、てんとう虫を捕まえながら登校してきたんですね。その量にびっくり! そんな量を捕獲するFくんの性格も、袋の中でうごめく赤い命のビジュアルも、いろいろびっくりしたんだけど、「すごいものをみてしまった!」と頭にこびりついた。
「なんでそんなインパクトあったのかなあ」って、今思うと、いろいろわかることがある。最初は液体だと思った赤いジュースが実は、全部生き物、強烈な『生』のイメージ。Fくんの無尽蔵な捕獲のエネルギーもちょっと乱暴な『生』のイメージ。あんな狭い袋に詰め込まれたてんとう虫はかわいそうで、すぐに死んでしまうだろうという『死』のイメージ。遠くからみた袋の赤い液体は血のよう……。
『生』と『死』のイメージがいっぺんにドバーっとやってきて、僕はなんか傷ついたんですね。でもどこかそのビュジュアルが気になって、授業のあとも何度も見せてもらったりして。ずっとみていたいけど、見ちゃいけないような、どんな気持ちになっていいのからない強烈な体験。今思うと、「芸術体験だったな~」と思うんです。
タマムシの事、てんとう虫のこと、虫にまるわるエピソードはグロテスクな思い出が多い。でもいつもそこに、『美』が、くっついてやってくるように思うんです。
きわめつけは、これ。これはまさに美術作品なのだけど
遠くでみたら、金属の光沢を放つ巨大な美しい球体にみえる。
でも、ちかづいて、よく見ると、うんぎゃーーーーーーー! ヤンファーブルの「Le Bousier」という作品。
こんなのもあります。洋服のような……。でも全部タマムシ。
美術品は、ただ、驚かしているのではないです。まさに生と死のイメージを同時にビジュアル体験しちゃうんですよね。えげつなく、美しく。激しく問いかけてきます。ヤンファーブル、彼は大人になってから、ファーブル(『昆虫記』の人)が曽祖父だと気づいたらしいんですね。虫の呪縛w。
幼い頃、昆虫図鑑を眺めていた僕の時間は、美しさと不思議さに酔いしれる時間でした。本の中のバリエーション豊かな虫たちは、この世界のどこかにほんとに存在するモノたち。それがゆえに、今いる自分の世界を愛することもできたんじゃないかと思うほどです。誰がこの虫のデザインをしたのかわからないけど、自然とか、宇宙とか、かなり大きいものの存在をどうしても考えてしまう。考えてもわからないんだけど、宇宙と繋がる大事な時間、宗教的な時間だったなあと思うんですね。
僕のバイブル。
ビンに入ったタマムシ、実はまだ持ってる。
これも捨てられない……。
タナカカツキ
1966年、大阪府出身。18歳でマンガ家デビュー。以後、映像作家、アーティストとしても活躍。マンガ家として『オッス! トン子ちゃん』、『バカドリル』(天久聖一との共著)など作品多数。1995年に、フルCGアニメ『カエルマン』発売。CM、PV、テレビ番組のオープニングなど、様々な映像制作を手がける。映像作品『ALTOVISION』では「After Effects」や「3ds Max」を駆使して、斬新な映像表現に挑んだ。キリンジのアルバム『BUOYANCY』など、CDのアートディレクションも手掛ける。