幼い頃は、ただ単に絵が上手くなりたいと思って絵を描いていたわけなんですが、単に上手い絵ってつまんないことも気付きはじめて、たとえば、絵心のない人の絵ってギョッとするような魅力があったりして……。まあ、そこまで極端じゃなくても、上手い絵って描いててもつまらないから、どうすれば魅力ある絵が描けるんだろうと日々考えるわけです。

でも、ピカソくらいまでいっちゃうと、子供の僕はもうぜんぜん理解できないんですよね。上手い絵はつまらないってことはわかるけど、ピカソはぜんぜんいいと思わない。絵を描くのが大好きな僕はピカソはもう絵の分野じゃなかったです。あれは絵の魅力じゃなくて大人が何か価値をこじつけてるだけだと思っていました。

将来どんなことがあっても僕はピカソは好きになれないと思っていたし、もし大人になってピカソを好きになってしまったら、それは絵の魅力がわからなくなった大人に自分もなってしまったんだと思うようにしようと思っていました。「小学生がそんなややこしいことを考えるの?」と思われるかもしれませんが、僕は考えていました。その頃のことはしっかり憶えているんです。

これは僕が11歳の頃に子供絵画展に出品した絵です。どうです? 考えているっぽいでしょ? 周りに飾っている絵、少ししか見えてませんが、比べてください。そうとう考えてる絵です。

僕はダリが好きでした。同じ画面の中にいろんなモチーフがギッシリ詰まっているダリの絵は、絵そのものの魅力に溢れていました。ダリは画面にいろんなモチーフをぎっしり描くけど、描かないところは空間をどーんと空けるので圧迫感がないんです。僕もならって、グラデーションの空間を作って計算してます。11歳をバカにしちゃーいけません。お絵かき少年は考えているんです。

魅力ある絵とはどういうものなのか……。そんなことを考えながら、あるいはすっかり忘れながら、青春をすごして美大へ。美大い行けば、当然絵について考えることも多くなってくるんですが、図書館で見たピカソの画集にさっそくやられました。ピカソの線が、カッコいいのなんのって、かっこしいし、おもしろいし、ふざけてるし、自由だし。もう、こりゃー大変な絵だな~ってなっちゃった。あれだけ拒否してたピカソなのに……。さよなら子供の自分!

その頃、毎日図書館に入り浸って、個人ではとうてい買えない高価な大型画集をむさぼり読む。美大の図書館って最高ですよね。その頃、岡本太郎の絵や言葉に出会いました。「自分は既にピカソを超えた」という太郎の言葉をみて、「えっ!」ってなって、それからあの有名は名文句「今日の芸術は、うまくあってはならない。きれいであってはならない。ここちよくあってはならない」(『今日の芸術』)

こんなふうにハッキリと簡単に太郎は言い切っちゃうんですよね。自分もそれふうなことは感じていたけど、大人の芸術家がハッキリと言うんだってことが衝撃でした。世間ではその頃、岡本太郎はテレビでおもしろくイジられるキャラクターというだけでした。

このお話、さらに次回に続きます。

タナカカツキ


1966年、大阪府出身。弱冠18歳でマンガ家デビュー。以後、映像作家、アーティストとしても活躍。マンガ家として『オッス! トン子ちゃん』、『バカドリル』(天久聖一との共著)など作品多数。1995年に、フルCGアニメ『カエルマン』発売。CM、PV、テレビ番組のオープニングなど、様々な映像制作を手がける。映像作品『ALTOVISION』では「After Effects」や「3ds Max」を駆使して、斬新な映像表現に挑んだ。キリンジのアルバム『BUOYANCY』など、CDのアートディレクションも手掛ける。