コンピューターで絵を描くということや、描かれた(計算された)絵について、抵抗を感じるという人は現在どれくらいいるのでしょうか? コンピュータグラフィックスというのは、僕が始めた18年前はまだまだ見慣れないもので、CGというとすごく冷たい印象を人に与える愛想のないものでした。僕も手で描く絵とコンピュータで計算された絵は別、という意識で見つめていたのですが、音楽の分野ではデジタル、アナログ、もうそんな区別は気にならないところにきていたので、やがてグラフィックの世界も後追いするのかなあと、持ち前の好奇心でフルセットを購入し、CG環境を導入しました。新規な表現、こんなにも冷たい印象の絵は人間の手では描けない! という理解の仕方をして、すぐに夢中になりました。そして、コンピュータだからこそできる表現、セッションするおもしろさ、その醍醐味に気づいて、そのようにいい意味で最新機器に振り回されながら、18年間も創作の意欲を刺激してくれるものとしてCG環境は君臨しつづけてきました。現在、CGだから冷たい味気ないという印象はなく、それは使い手のテクニック次第である、というところまできました。パソコンで絵を描くということに、もはや抵抗はありません。しかし問題があります。

これまでずっと背中を丸めて紙とペンで絵を描き続けてきたのに、ある日、姿勢を伸ばして正面のモニターを向いて絵を描くことになり、おかげでずっと持病であった腰痛から開放されたのはよかったけど、肩のコリ、目の疲れが代わりにやってきました。さらにモニターを見つめるという行為が絵を描くということだけでなく、メールや調べもの、コミュニケーションや買い物まで、同じようにモニターを見つめる行為で、結果、一日中モニターを見続けるという、昭和の頃には考えられない異常な生活になりました。一日中パソコンをやっているというのはどうなのでしょう? 異常ですよね。でもそれが仕事だから仕方ないと諦めて、もうずいぶんと経ちました。僕はずっと、こういう環境、生活をなんとかしたいなあと思っています。同業者の中には、パソコンで絵を描くのをやめて筆とキャンバスに帰った方もいますが、そんなすっぱりとした考え方もできません。さらには、世の中が環境問題とやらで、人間らしい生活を唱えだし、自分も周りも年をとり、田舎暮らしをする人も出てきて、本当にそろそろ自分も真剣に考えなくてはなあと思いました。このまま歳をとってもパソコンで作業しつづけるのか……。

自分の好奇心を満たすものとして、そして創作を触発するものとしての最新機器、ソフトやデバイス、ネットワーク環境などはまだまだ魅力的ではありますが、その延長に、その先に、何かパソコンを見つめるという行為ではない、何か別の新しい創作環境を見つけたいと漠然と思っていたところ、僕はついに出会ってしまいました。新しい創作のセッションの相手です。これは昔では出来なかった、機材が進化してようやくできる表現です。それは水槽でございます。これもパソコンと同じような四角い箱ですが、そのガラスケースには水がひたひたと満たされております。最新の濾過器や照明機材などの進化は、玄関先にあった昭和の水槽のイメージとはかけ離れたものです。そこでは生き物を飼育するということがメインではありません。水槽内に生態系をサイクルさせ、美しい景色、水景を創り出す。

パソコンで絵を描くことの先が、なぜ水槽なのかは、次回お話します。

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タナカカツキ


1966年、大阪府出身。弱冠18歳でマンガ家デビュー。以後、映像作家、アーティストとしても活躍。マンガ家として『オッス! トン子ちゃん』、『バカドリル』(天久聖一との共著)など作品多数。1995年に、フルCGアニメ『カエルマン』発売。CM、PV、テレビ番組のオープニングなど、様々な映像制作を手がける。映像作品『ALTOVISION』では「After Effects」や「3ds Max」を駆使して、斬新な映像表現に挑んだ。