11月18日14時59分(日本時間)、景海鵬宇宙飛行士と陳冬宇宙飛行士の2人が搭乗した有人宇宙船「神舟十一号」が、地球への帰還に成功した。神舟十一号は今年10月17日に打ち上げられ、その約1カ月前に打ち上げられていた宇宙ステーション試験機「天宮二号」にドッキング。2人の宇宙飛行士は天宮二号の中に入り、30日間にわたる宇宙滞在をこなした。

第1回では中国の有人宇宙開発の歩みと、神舟宇宙船について紹介した。第2回では、宇宙ステーションの建造に向けた試験機として、2011年に打ち上げられた天宮一号と、そして今年9月と10月に打ち上げられた天宮二号と神舟十一号について解説する。

10月17日に打ち上げられた有人宇宙船「神舟十一号」 (C) CMS

神舟十一号と天宮二号の想像図 (C) CMS

宇宙ステーションへの道

「神舟」宇宙船による初の有人飛行、複数人での飛行、そして船外活動(宇宙遊泳)と、順を追って、そして時間をかけて進められてきた中国の有人宇宙開発は、続いて宇宙ステーションの建造に向けて動き始めた。

まず2011年9月29日に、「天宮一号」と名付けられた宇宙ステーションの試験機が打ち上げられた。天宮は全長10.4m、本体部分の直径が3.35mで、神舟宇宙船より二まわりほど大きいものの、かつてソヴィエト連邦が運用していた宇宙ステーション「サリュート」や、国際宇宙ステーション(ISS)のモジュール「ザリャー」などより一まわり、二まわりほど小さい。機体は大きく2つに分かれており、前半分が宇宙飛行士が滞在したり実験したりする区画、後ろ半分は太陽電池や電子機器などをもつ区画になっている。

天宮一号の試験が済んだ後、その打ち上げから約1カ月後の11月1日に、「神舟八号」宇宙船が打ち上げられた。ただし宇宙飛行士は乗っておらず、無人での打ち上げだった。神舟八号はその2日後に天宮一号に自動でドッキングし、さらに一度ドッキングを解除し、もう一度ドッキング。そして11月17日に地球へと帰還した。これにより、打ち上げからドッキング、そしてドッキング解除と地球帰還まで、一連の流れを試験した。

これらが無人で行われたことからも、ここにきてもなお、中国が慎重に計画を進めていることが伺える。

そして2012年6月16日、満を持して3人の宇宙飛行士が乗った「神舟九号」が打ち上げられ、天宮一号にドッキング。宇宙飛行士たちは天宮一号の中に入り、10日間にわたって滞在し、6月29日に地球への帰還に成功した。さらに1年後の2013年6月11日には、ふたたび3人の宇宙飛行士が乗った「神舟十号」が打ち上げられ、天宮一号に12日間にわたって滞在、帰還している。滞在中、飛行士らは天宮一号の運用はもちろん、宇宙実験をしたり、地上と通信をつないで宇宙教育を行ったりなど、多忙な日々を過ごした。運用は順調に行われ、また宇宙飛行士の健康などに影響はなかったという。

現在、天宮一号はすでに運用を終え、現在は大気との抵抗などで軌道が下がり、自然に大気圏に再突入するのを待っている状態にある。現在の予想では、2017年の終わりごろに再突入するとされている。

天宮一号の想像図 (C) CMS

天宮一号の中に入った神舟九号の宇宙飛行士たち。左から、景海鵬飛行士、劉洋飛行士、劉旺飛行士 (C) CMS

天宮二号と神舟十一号

今回打ち上げられた「天宮二号」は、天宮一号とほぼ同型の機体ではあるものの、一号の成果を受けて改良が加えられている。たとえば宇宙飛行士の居住性を改善したり、実験装置をよりたくさん積んだり、ドッキングした補給船から燃料の補給を受けられる機能を追加したりと、より実践的な宇宙ステーションの試験機として、また宇宙実験室としての機能がそれぞれ強化されている。

また軌道の高度も、天宮一号の約340kmから約50km高くなり、高度390kmになった。これは将来の大型宇宙ステーションが飛行すると想定されている軌道の高度とほぼ同じであり、条件を合わせることでより実践的な試験ができるとしている。

天宮二号は9月15日23時4分(日本時間)に打ち上げられ、予定どおりの軌道に投入された。そして船内の環境などが正常であることが確認された後、10月17日8時30分、天宮二号へ向けて有人宇宙船「神舟十一号」が打ち上げられた。神舟十一号も、天宮一号にドッキングした九号や十号と大きく違う点はないものの、ドッキングのための装置が改良されるなど、細かな部分が変わっているという。

天宮二号の打ち上げ (C) CMS

神舟十一号の打ち上げ (C) CMS

神舟十一号には景海鵬宇宙飛行士と陳冬宇宙飛行士の2人が搭乗した。景飛行士は1966年生まれの50歳で、過去に神舟七号と九号で宇宙に行った経験を持つ。神舟七号では、船内から船外活動をするほかの2人の宇宙飛行士をサポートし、神舟九号では船長として、ほかの2人の飛行士とともに天宮一号での滞在ミッションをこなしている。現在までに、中国の宇宙飛行士のなかでは最も宇宙に長く滞在した飛行士である。

一方の陳飛行士は1978年生まれの37歳で、今回が初の宇宙飛行だった。両名とも、中国人民解放軍空軍のパイロット出身である。

神舟十一号の打ち上げも成功し、約2日間をかけて天宮二号へ近付き、10月19日にドッキング。景飛行士と陳飛行士は天宮二号の中に入った。飛行士らは船内での滞在を開始し、宇宙実験や小型衛星の分離、また新華社の宇宙特派員として宇宙での暮らしをリポートするなど、忙しく働いた。

もちろん宇宙で暮らすということそのもののも大きな実験であり、食事や睡眠、体力維持のための運動など、人間が宇宙で暮らすということに関するあらゆるデータが集められた。また今回から、地上側の医学サポート体制も強化され、今回を含め将来的に宇宙飛行士が宇宙で病気や怪我をした際に、より適切かつ迅速な判断が下せるようになったという。さらに中継衛星を使用したインターネットも開通し、Eメールのやり取りが可能になった。

そして30日の滞在を終え、神舟十一号は11月17日13時41分に天宮二号から分離。軌道モジュールを分離した後、減速して軌道を離脱し、大気圏に再突入した。

大気圏再突入後、機械モジュールは燃え尽き、一方の帰還モジュールは14時59分ごろに着陸した。なお、着陸場所は当初予定していた地点より100kmほどずれたという。これまでの神舟や、相似形のソユーズの帰還モジュールなどは、正常であればおおむね10kmの誤差で着陸が可能であるため、予想以上の風が吹いていたとか、あるいは宇宙船に何らかの異常が発生した可能性もある。ただし、11月21日現在、着陸地点がずれた理由は不明である。ただ、飛行士らの健康に問題はないと報じられており、帰還セレモニーに元気に出席する姿も配信されている。

ちなみに軌道モジュールは今後もしばらく周回を続ける予定で、何らかのデータを取るものと思われる。もっとも、軌道高度は低いため、そう遠くないうちに大気圏に再突入し、船内に積まれた天宮二号で出たゴミなどとともに燃え尽き、処分されることになる。

天宮二号の中に入った景海鵬宇宙飛行士と陳冬宇宙飛行士 (C) The State Council of the People's Republic of China

地球に帰還した神舟十一号 (C) The State Council of the People's Republic of China

宇宙で天宮一号、二号の試験が続く一方、地上では本番である大型の宇宙ステーションの開発と、そしてその打ち上げや運用を支える、新たなロケットや補給船の開発も進んでいる。

(第3回へ続く)

【参考】

・http://www.cmse.gov.cn/module/download/downfile.jsp?classid=0&filename=1609141817116362147.pdf
・http://www.cmse.gov.cn/art/2016/11/18/art_18_31353.html
・Shenzhou 11 crew return to Earth - China Space Report
 https://chinaspacereport.com/2016/11/18/shenzhou-11-crew-return-to-earth/
・Two Chinese astronauts back on Earth - Spaceflight Now
 http://spaceflightnow.com/2016/11/18/shenzhou-11-landing/
・Shenzhou-11 returns Chinese duo to Earth | NASASpaceFlight.com
 https://www.nasaspaceflight.com/2016/11/shenzhou-11-returns-chinese-duo-to-earth/