グーグル・クラウド・ジャパンは11月中旬にデータサイエンティスト、アプリケーション開発者向けに、最新のGoogle Cloud AIや機械学習サービスの活用例などを紹介するデジタルカンファレンス「Google Cloud ML Summit」を開催。本稿では、SUBARUのAI開発拠点「SUBARU Lab」における先進安全システム「アイサイト」の機械学習実験の効率化に向けたGoogle Cloudの活用事例を紹介する。
アイサイトの進化に向けた機械学習の実験に取り組むSUBARU
SUBARU車は安全性能、世界各国における第三者機関による安全アセスメントで高い評価を得ており、直近ではフラッグシップの「レヴォーグ」が自動車事故対策機構のJNCAP(Japan New Car Assessment Program)において最高得点を獲得。
また、販売台数100万台あたりの死亡重症事故数は直近10年で半減し、2030年には「総合安全」で死亡交通事故ゼロを目指している。同社が提唱する総合安全は走り出す前の0次安全から走行安全、予防安全、衝突安全、命を守るつながる安全までトータルで安全性能を向上させていく設計思想。その中で予防安全を担うのがアイサイトというわけだ。
アイサイトは、人の眼と同じ原理で立体視するステレオカメラで、自動車や路面標示などの画像認識と距離・速度の測定を同時に行い、認識アルゴリズムはすべて内製開発となる。
SUBARU 技術本部 ADAS 開発部 AI R&D課の大久保淑実氏は「ステレオカメラは今も昔も変わらずメインセンサであり、コア技術だ」と話す。
同社は、アイサイトの進化に向けて大量の画像データをもとに機械学習の実験を繰り返し行っており、昨年12月にスペシャリスト人材の獲得や作業空間、働き方改革を目的に開設したSUBARU Labで機械学習などの研究開発を加速させている。
SUBARU Labでは、安全性や運転支援を向上させるためAIをアイサイトに導入する研究開発を手がけており、従来は識別できなかった物体・道路境界などを新たに識別して予防安全領域の拡大と、経路をはじめとした判断機能を強化し、運転支援領域の拡大に取り組んでいる。
ただ、自動車へのAI実装は自動車や路面標示、信号など現実世界のため検出対象が多いことに加え、非常に限られた半導体の消費電力とコスト制約があることから、複数のタスクを効率よく処理するマルチタスクネットワークを採用・実装し、モデル開発している。マルチタスクネットワークにおける大半の処理はバックボーン(特徴抽出)で行い、複数のタスクをつなげているという。
同社では、独自のマルチタスクネットワークとして「SUBARU ASURA Net」を開発。物体検出や路面標示検出、光検出、セマンティックセグメンテーション(画像内のすべての画素にラベル、カテゴリを関連付けるディープラーニングのアルゴリズム)をはじめとした20以上のタスク、60以上のアウトプットをバックボーンにつなげており、ASURA Netは自動車、走行領域、路面標示、信号などを同時に認識することを可能としている。
一方で、AI開発環境における課題として大久保氏は「ML(マシンラーニング)用ワークステーションの老朽化」「モデル学習規模の拡大」「MLエンジニアの増加」の3点を挙げている。
ワークステーションは、5年経過すれば既存インフラが老朽化してリプレイスが必要になるほか、高価なマシンを大量にリプレイスするためには多くの調整が必要となり、開発のスピード感に追い付かないという。
また、モデル学習規模の拡大については、教師データを増やしつつ継続的にマルチタスクモデルを学習するために、それを上回るスピードでスケールアウトする必要がある。
さらに、MLエンジニアの増加に関してはSUBARU Labの開設により、エンジニアの増加に対してオンプレミス環境だけでは不足してしまうという側面があった。