ビジネスモデルや産業構造が大きく変化するなか、BtoB企業が持続的な成長を維持するためには、DXがもはや必要不可欠だ。BtoBビジネスを手掛ける三菱ケミカルホールディングス(以下、三菱ケミカルHD)は、2017年より化学業界内において先陣を切ってDXに取り組んでいる。同社は、DXの立ち上げから実践に向けてどのような課題に遭遇し、知恵を働かせてきたのか。
三菱ケミカルHD 顧問 岩野和生氏は、10月28日に開催されたビジネス・フォーラム事務局×TECH+フォーラム「DX Day 2021 Oct. 探索するDX経営」の特別講演にて、同社におけるDXの定義やビジョンを示すとともに、DXの実践にあたって考慮すべき点について解説した。
三菱ケミカルHDにおけるDXの現在地
岩野氏は、DXの実現に向けたよくある問題点を、大きく3つのフェーズに分けて次のように整理する。
「DXをやろうと部下に指示を出すが、現場はよく分からない。戦略コンサルに話を聞くも、ピンキリでうまくいかない。外部人材を活用して進めようとしても、意識のギャップがある。こうした問題は、DXで何をやりたいのかというビジョンと意思が不明なために起こってしまう。この状態で右往左往してしまうのが、第一段階です。
第二段階は、会社がそもそもデジタル以前の問題にあると気付くところから始まります。そして、分かりやすいスモールサクセスをつくる方針で進め、小さな成功が積み上げられていくと、分かった気やできる気分になり、社内チームの構築や教育などによって、風土が出来てきます。
しかし、やがて『こうした小さいことばかりやっていて会社や社会を変えていけるのか? 』という疑問が生まれ、ゴールを設定したり、意思の確認と覚悟の必要性が出てきます。第三段階は、会社を社会のどこに位置づけるのか、その価値を再考しビジョンを掲げて布石を打っていくフェーズです」(岩野氏)
このような道をたどり、今は第三段階にあるという三菱ケミカルHDは、”デジタル技術と思想を用いて、さまざまな関係性に変革を起こして価値をつくり出すこと”を現時点でのDXとして定義している。
「デジタル技術と思想によって、さまざまな新しい関係性を捉えられるようになったことで、価値が生み出せるようになってきました。DXは社会変革まで含めた大きな取り組みにまで広げていくことができます。そうしたなかで、自社がどこに価値を出したいか、ということが大切です。
また、関係性を捉え直すなかでは、アイデンティティの定義も変わります。人間と機械が一体となってアイデンティティを形成するかもしれないし、人間だけがアイデンティティかもしれない。組織も一つのアイデンティティになるかもしれない。アイデンティティの定義が変わると、サービスの提供先も変わることを意識すべきです」(岩野氏)
まず取り組んだ、ビジョンの設定とチームづくり
ここからは、三菱ケミカルHDにおける具体的なDXの進め方について見ていきたい。
同社はまず、DXのビジョンを”デジタル技術と思想によって会社、業界、社会に新しい流れをつくり、三菱ケミカルHDのビジネスや風土に変化をもたらす”と設定。データを活用し業務効率化を行う「Operational Excellence」、デジタルを活用して新たなビジネスモデルを創出する「New Digital Business Model」、テクノロジーの活用に向け組織や制度、仕組みを再構築する「New Digital Paradigm」の3つをその主な方向性に定め、さらにその土台として、全社共通インフラ基盤の整備、人材育成や風土改革に取り組んでいくという戦略を表明した。
続いて取り組んだのが、多様なメンバーからなるチームづくりだ。DXというとデータサイエンティストやエンジニアの採用が注目されがちだが、三菱ケミカルHDでは、ストラテジー、ビジネスディベロップメント、コミュニケーションなどの専門家もDXに必要と考えた。ローテーションプログラムによって社内外からさまざまな知見や才能を集結させた。
岩野氏はこの狙いについて「チームメンバーは固定化されがちだが、DXは考え方や技術がどんどん進歩していくため、才能のエコシステムを意識した。アドバイザーや開発者コミュニティ、大手ITやスタートアップ、アカデミアや個人の専門家がパートナーとして離合集散して価値想像に参加できることを目指したい」と説明する。