日本時間の2021年10月13日、米Notion Labsが提供するクラウド型情報共有ツール「Notion(ノーション)」日本語ベータ版がリリースされた。様々なブロックを自由自在に組み合わせたり、テンプレートをベースにカスタマイズしたりしながら、自分たちに適した形で、タスク管理や議事録、Wikiなどの情報共有ができるNotion。従来、日本語版はなく、英語版中心の提供だったにもかかわらず、すでに日本では個人、企業ともに多数利用されており、日本におけるコミュニティは1,200人を超えている。なぜNotionは高い人気を獲得しているのか。そして同社は、日本市場にどのような可能性を見いだしているのか。Notion Labsゼネラルマネジャー日本担当である西 勝清氏にお話を伺った。

西 勝清氏

Notion Labsゼネラルマネジャー日本担当・西 勝清氏

“誰でも”自分の思う理想のかたちを作れるスペース

「我々はNotionをオールインワンワークスペースと呼んでいる」と、西氏は説明する。Notionにはドキュメント管理やタスク管理、Wikiといった様々な活用方法があり、それぞれにテンプレートが用意されている。テンプレートをベースにしながら、ユーザーは自分が使いたい機能(ブロック)を組み合わせて、自分だけのワークスペースを作成できる仕組みだ。西氏はそれを「まるでレゴブロックを積み重ねるように」と表現する。

Notionのワークスペース

Notionのワークスペースでは、自分に必要なページをテンプレートから選択して作成できる

ではそのアイデアはどこから生まれたのか。Notionの原点は創業者の一人であるアイバン・ザオ(Ivan Zhao)氏の学生時代の体験にある。当時同氏は、仲間内で唯一コーディングの知識を持っていたことから、頼まれてホームページやソフトウェアの制作をすることが多々あったという。そうしたなかで、「コーディングの知識がない人でも簡単に作りたいものが作れればいいのに……」と考えるようになったのがきっかけだ。これがアイデアの種となり、ブロックのように欲しいパーツを組み合わせて理想のワークスペースを作れるクラウド型情報共有ツール・Notionが誕生した。

こうした背景から生まれたNotionは、使い勝手にもこだわりがある。西氏がNotionの特徴として挙げるのが、カスタマイズのしやすさだ。

「一般に、企業の情報共有サイトで『こういうページを作りたい』『こういう機能を盛り込みたい』と思ったら、IT担当者などに依頼をしなければならないケースが多いでしょう。それに対してNotionでは、自分が作りたいと思ったときにすぐ、自分自身で思い描いたページを作ることができます」

このカスタマイズのしやすさを支えているのは、直感的に使うことができるUIだ。その使いやすさは、これまで英語版が中心であったにもかかわらず、すでに多くの日本企業が導入しているという点が裏付けていると言えるだろう。

コミュニティとともに成長するプロダクト

今回の日本語版リリースにあたり、それを後押ししたのはコミュニティの存在だ。コミュニティとは、Notionのユーザーが活用方法を共有するグループのこと。メンバーのなかには動画サイトで便利な使い方などを発信している人もいるという。日本ではNotion Tokyo、Notion Kyotoなど地域ごとのコミュニティ活動も盛んだ。日本に多くのユーザー、コミュニティが存在していたこと、日本人コミュニティで日本語化を望む声が多かったことが、Notion日本語版リリースのきっかけの一つでもある。

西氏は「コミュニティはNotionにとって、一緒に成長していく存在」だと語る。実は、Notionでは今回の正式リリース前に、コミュニティ内で一部のメンバーに日本語版を使用してもらったのだという。

「日本語化にあたっては、コミュニティの方から『英語の文言をそのまま翻訳してしまうと、Notionの世界観からずれてしまうのでは』といった指摘もいただきました。ほかにも日々、多くの方からさまざまなフィードバックをいただいています」

絵文字の数

絵文字の数を増やしてほしいというリクエストを受け、新たな絵文字も追加した

これらのフィードバックを製品に反映し、Notionはついに日本語版のリリースに至ったのである。

なぜ、日本市場なのか?

西氏は「Notionは今の日本企業にも向いているツール」だという。想定外のコロナ禍で多くの企業は急激なDXや働き方の変化を求められた。従来通り、あるいは従来以上の成果を出すためにはこれまで以上に組織の連携とスピード感が必要になる。

「組織が同じ方向を向いていること、組織運営をスピーディーに行うことが求められる今、それができているチームは組織としての透明性が維持できているのではないか」と西氏は推察する。チームメンバーがそれぞれ異なった情報を持ち、思いおもいの方向に進むのではなく、全員が同じ量の情報を持ち、その情報に基づいてそれぞれが自走するためのサポートをするのがNotionなのだ。

メンバー全員が知っておくべき情報

メンバー全員が知っておくべき情報をまとめておけるので、いつでも/誰でも必要な情報を取得できる

また、急激なDXによる複数ツールの導入が、メンバー側の混乱を招くこともある。加えて、ツール自体は便利でも、メールだったり、Officeだったりと、さまざまなツールで情報をやり取りし、記録していると、どこに何の情報を保存したのか分からなくなりがちだ。実際、西氏自身もそのような経験があったという。その点、オールインワンのワークスペースであるNotionならば懸念することも少ないだろう。

職種別のテンプレート

マーケティング、製品管理など、職種別のテンプレートも用意されている

「今、『メンバー全員が同じ情報を持ちスピーディーに組織として動きたい』『情報を一元管理したい』という2つの側面で、Notionの需要が高まっています。日本でも規模の大きな企業の全社導入が決まるなど、日本市場への手応えも感じます」

終わりのない基礎作りと目指す理想形

日本語ベータ版リリースにより、Notionはいよいよ本格的に日本市場に参入する。西氏は今後の展開に関して、「2つの基礎がきちんとできている状態が大切」だと考えているという。

1つは「フィードバックによるアップデート」だ。Notion英語版は日々さまざまな更新がなされており、”これで完成”というゴールはない。これと同様に、日本語ベータ版もユーザーからのフィードバックに基づきブラッシュアップし続けていく構えだ。もう1つは西氏が”我々のコア”だという「コミュニティとの協業」である。これら2つの基礎を固めた上で、「今後はいろいろなジャンルの企業とのパートナーシップ連携も進めたい」と西氏は語る。

「企業の効率性や生産性をアップするツールとして、Notionをプラットフォームのような存在にしていきたいと考えています」

いよいよユーザー待望の日本語ベータ版をリリースしたNotion。今後、日本市場でどのような広がりを見せてくれるのか、大いに注目したい。