ビジネスにおけるデータ活用の重要性は、もはや言うまでもないだろう。さまざまな特徴を備えたデータ分析ツールの数々は、AIの普及によってさらなる進化を遂げつつある。だが、技術的にはより深いデータ分析が可能になったにもかかわらず、満足な成果が得られずに頭を悩ませる企業も少なくない。

7月12、13日にオンライン開催された「ガートナー データ&アナリティクス サミット」では、ガートナー ジャパン ディレクター/アナリストの一志達也氏が登壇。データ活用を進めていく上で留意すべき点や有益な情報を提供するための考え方、IT部門に求められる役割について解説した。

「入口」と「ゴール」を間違えてはいけない

データ活用において最も重要なのは「(ユーザーにとって)そのデータが有益なものかどうか」だと一志氏は語る。なぜなら、いかに正確かつ迅速に提供されたとしても、データは素材に過ぎないからだ。分析のためのツールが用意されたとしても、使いこなせなければ意味がない。

一志氏は、”まずいちばん最初に伝えたいこと”として次のように説明する。

「データ活用やデータドリブンという言葉が広まった結果、『データを活用したいので、ユーザーがデータを探せるように、まずは統合データ基盤を作りたい』などとよく言われます。でも、そういうことではないのです。インフラを入口にした取り組みで、誰が何のためにどう使うのかがはっきりしないままに、とにかく作れば良くなるはずというのでは、どんどん(成功から)乖離してしまいます」

つまり、データ活用は「どの部門のどのユーザーにとって、どんな情報が何の役に立つのか」「それはなぜなのか」を明確にした上で進めなければいけないということだ。頭ではわかっていても、いざ何か行動を起こそうとすると「じゃあインフラを用意しよう」となってしまうケースは少なくないだろう。一志氏は「入口、そして目指すべきゴールを間違えないでほしい」と警鐘を鳴らす。

一志達也氏

ガートナー ジャパン ディレクター/アナリストの一志達也氏

では、どうすれば有益性の高い情報提供ができるのか。

はっきりしているのは、情報提供の結果、生じる成果を意識することだという。そのためには、ユーザーの現状を理解し、どうすればユーザーが成果を得られるかを考えることに加え、成果を測るための指標も用意する必要がある。

「ここで多くの場合、(現状や課題を知るために)ユーザーにヒアリングに行こうとします。間違ってはいませんが、それでは不十分です」

なぜなら、ユーザー自身も自分がどんな課題を抱えており、どうすればそれを解決できるのかがわかっていない場合が多いからだ。そのため、ヒアリングでは単に話を聞くのではなく、相手をよく観察し、相手が気づいていないことに気づかなければならない。そうして何か気づきがあったとしても「相手に押し付けてはいけない」という点に注意が必要だ。あくまでも提案し、議論した上で、では試してみようところまで話を持っていく必要がある。

試す際は、手軽に試せる範囲で試しては改善するプロセスを繰り返す。あらかじめ撤退条件も決めておき、うまくいかないようならばやめることも視野に入れる。

このプロセスでもう1つ浮上する課題は、情報を提供する相手は1人とは限らないことだ。1つの部門に複数人いることもあれば、提供先が複数の部門にまたがることもあるだろう。その場合、関係する人々を全て巻き込んでいく必要がある。

「どうしても、こういう取り組みは抵抗勢力が出てきます。なるべく協力してほしいのであれば、なぜやるのかをはっきりさせることです。また、データ活用を推進する人が、相応の権限や責任を持っていることが必要になります。『この人はやりきる』という信頼を獲得しなければなりません」(一志氏)

こうした取り組みのなかで、最も重要とも言える意識の変革ポイントとして同氏は「お金をかけない」「時間をかけない」「そのための工夫を惜しまない」ことを挙げる。「相手に分析してもらうためにデータ基盤を作る、というのは、最終的に人任せになる。ITリーダーたちがビジネス部門を巻き込んで、自分自身でやるんだという意識が必要。そこを見失わないようにしていただきたい」と強調する。