「アプリケーションは構築の仕方や使い方、ビジネスの依存度など、全てが変化している。そして、変化への備えが必要であることは明らか」――そう語るのは、ガートナー ディスティングイッシュト バイスプレジデント アナリストのイェフィム・ナティス(Yefim Natis)氏だ。
ガートナー ジャパンは6月21日~22日、年次カンファレンス「ガートナー アプリケーション・イノベーション&ビジネス・ソリューション サミット 2021」を開催した。21日の講演「コンポーザブルな未来のアプリケーションへの戦略的アーキテクチャ・ロードマップ」に登壇したナティス氏は、これからのアプリケーションを構成する「コンポーザブル・エンタプライズ・アーキテクチャ」の骨子について解説するとともに、変化に向けた戦略的なロードマップを示した。
コンポーザブルな考え方とは?
ガートナーが四半期ごとに大手企業の経営幹部を対象に行っている調査によると、企業が抱えるリスクとして2018年第4四半期に突如として登場した「変化のスピード」という回答は調査回数を追うごとに増加し、2019年第2四半期には最も懸念されるリスクに挙げられる結果となった。
「これは一過性のトレンドではなく、戦略的な変化です。過去50年間は、全ての技術プロジェクトは安定性に重きが置かれていました。変化はリスクだったのです。しかし、調査を見ると、今や変化自体ではなく、変化できないことがリスクになっています。全ての企業は、重点を置くポイントを安定性から俊敏性へとシフトさせる必要があります。そして、シフトする上で有効なのがモジュール性についての検討です」(ナティス氏)
例えば、アプリケーションに変更を加える場合、安全/迅速、かつ効率的に進めるために、モノリシックなアプリケーションを複数のパーツに分割して該当部分だけを変更したいと考えるだろう。そうすることで、各々のパーツの完全性を担保しつつ、安全かつ迅速に変更可能になるというわけだ。「これが、コンポーザブルな思考であり、アーキテクチャである」とナティス氏は説明する。
幸いなことに、「企業は皆、コンポーザルブビジネスへの道を進んでいる」(ナティス氏)という。テクノロージの意思決定には、「安定性」と「俊敏性」のどちらを重視するか、「ビジネス」と「IT」のどちらが主導するかが影響を与える。
仮に、全ての企業が通ってきた道――つまり安定性を重視している場合、意思決定はIT主導型で、統合エンタープライズに焦点が当たっているだろう。既存のシステムを改善し、より柔軟かつ効率的に動く統合エンタープライズの構築に向けた投資を行っているわけだ。
一方、ビジネス主導である場合、おそらくSaaSやクラウドに注目しているはずだ。安定した大規模なアプリケーションを持ち、クラウドにオンプレミスと同じ体験を求める傾向にある。だが、「俊敏性に偏り始めると、おそらくAPIエコノミーになる。APIを介して新しい機能を組み合わせるので俊敏性は向上するが、これは再びIT主導になる」とナティス氏は説く。
この道のりにおける次のステップは、再度ビジネス主導に戻り、デジタルリソースを使用し、自らエクスペリエンスを形成する役割をビジネス側が取り戻すことだ。これが「ケイパビリティエコノミー」である。
その構成要素はAPIではなく、「ビジネスケイパビリティ」であり、ビジネスとITが連携して新しいアプリケーション体験を作り出すことになる。
「この工程は全ての組織が通る道であり、(全ての組織は)必ずこの工程のどこかにいます。現在地から最終地点までの距離に応じて、ケイパビリティエコノミーへの反応は異なるでしょう。『すでにやっている』と思うかもしれないし、『決してそうはならない』と考えるかもしれません。(いずれにせよ)この道のりを進むなかで、移行によるメリットを発見するはずです。ステップごとに俊敏性、チャンス、デジタルパワーが向上します」(ナティス氏)