コロナ禍で急速に需要が高まっているオンライン授業。小学校や中学校といった学校教育はもちろん、学習塾や予備校、資格講習などあらゆる分野で導入が進みつつある。

しかし、こと自動車教習所の学科教習においては、オンライン化が遅れていた。ニーズがなかったわけではない。むしろ昨年からオンライン化に対する要望は高まっていたという。

だが、自動車の運転は人の命を左右する重要な技術である。だからこそ自動車教習所の学科教習は必ず規定の時間×回数を確実に受講することが定められており、本人確認も厳重に行われている。そして、それは自動車教習所というリアルの場に生徒が集まるからこそできることだった。オンラインでは生徒本人が本当に受講しているのかどうか、席を外したりすることなく最初から最後まで聞いているかといった確認が難しく、これがオンライン化のネックになっていたのである。

そうした現状に風穴を開けるサービスが今年5月から本格稼働した。アカメディア・ジャパンの特許技術によるAI自動本人認証システム「オンライン・フェイス」と、オンライン・フェイスを活用した日本初の自動車教習所オンライン学科教習サービス「オート・アカデミー」である。

オンライン・フェイス、そしてオート・アカデミーは厳しい学科教習のオンライン化をどうやって可能にしたのか。

開発に携わったアカメディア・ジャパン 代表 菊池参氏と、オート・アカデミーを導入した小金井自動車学校 副管理者 学科教習課 課長の川島弘和氏に話を聞いた。

川島弘和氏、菊池参氏

(写真左から)川島弘和氏、菊池参氏

待望のオンライン学科教習をスタート - 実現までの「課題」

菊池氏は2013年から自動車教習所の学科教習のオンライン化に取り組み、8年をかけてオンライン・フェイス、そしてオート・アカデミーを実現させた。オンライン・フェイスを組み込んだオート・アカデミーは現時点で全国の教習所100校ほどから申し込みがあり、続々と運用開始に向けた準備を進めているという。リリースから約1カ月経った現在、全国で4つの自動車教習所が導入。東京では小金井自動車学校がいち早く導入し、運用を始めている。

「東京で録画配信方式のオンライン学科教習を導入した自動車教習所は当校が初めてです。導入以来、多くのお問い合わせを受けており、大きな反響を感じてます」と川島氏は語る。

川島氏

「今は通常の対面授業とオンライン学科教習のどちらかを生徒が選び、受講いただいています。オンラインが好評で、対面授業は開催しても参加者が少なくなっていることから、7月をめどに完全オンライン化へと切り替える予定です」(川島氏)

学科教習はオンラインでも、実地教習や応急救護については教習所に足を運ぶ必要がある。にもかかわらず、小金井自動車学校には遠方からの入校希望者が殺到しているという。

「遠くから片道1時間以上かけて通っている生徒もいます。50分の学科教習を受けるのに往復2時間かかるわけです。そういう生徒にとってオンライン化は大きな魅力なのだと思います」(川島氏)

小金井自動車学校のオンライン学科教習はライブ配信ではなくオンデマンド形式だ。生徒は好きな時間にオンラインで受講できるため、仕事や学業との両立がしやすいというメリットがある。

実際に同校でオンライン学科教習を受けた和嶋悠樹さんと安部穂乃香さんも、「対面よりもオンラインのほうが絶対にいい」と口をそろえる。

「仕事では夜勤もあるので、対面だと取りたいのに取れない講習もあります。オンラインなら好きな講習を自分のタイミングで受けられるので助かっています」(安部さん)

「平日は大学の授業があるので、どうしても教習所に通えるのは土日がメインになってしまいます。でも、オンラインなら平日も受けられるのでスケジュールの調整がしやすいです」(和嶋さん)

安部穂乃香さん、和嶋悠樹さん

(写真左から)安部穂乃香さん、和嶋悠樹さん

教習所側としても、毎日決まった時間に教習指導員が教壇に立つ必要がなくなるため、ほかの業務に時間を割くことができる。

メリットばかりに思われるオンライン学科教習だが、導入に至るまでには課題もあった。それが、”本人確認が難しい”ということだ。講習開始時にログインを求めたとしても、いったんログインされてしまえば後は本人が受講していなくてもわからない。

また、教習所側からは受講している生徒の姿が見えないので、居眠りしていたり、スマホをいじったりしていても注意することは難しい。

昨年、新型コロナウイルス感染症が拡大したことに伴い、警察庁からは「自動車教習所もオンラインによる学科教習を取り入れるように」という通達があったが、それはあくまでも上記のような課題をクリアできるなら、という条件付き。実際には本人確認を確実に行う手段がなかったため、自動車教習所の講習はオンライン化が遅れていたのだ。