長引くコロナ禍でさまざまな価値観が揺らいでいる。これまでの働き方を見直し、進む道を変えた人も少なくない。働く人の変化に合わせて、組織も否応なしに変わっていく。コロナ禍以前から働き方改革の名目で変化は始まっていたが、今、その変化はさらに加速している。
しかし、そうした変化に対応できている企業もあれば、できていない企業もあるのが実情だ。真摯に取り組んでいるにも関わらず、なぜ企業は変化に対応できないのか。
11月26日に開催された「マイナビニュースフォーラム 働き方改革 Days 2020 Nov.」では、「緊急事態に対応できる組織、対応できない組織の違いとは」と題し、ファンリーシュ 代表 志水静香氏が登壇。日本企業が抱える問題とその解決策について講演を行った。
人口減少時代への移行で何が変わりつつあるのか
志水氏は、IT企業や自動車メーカーを経て外資系リテール企業に入社し、複数の企業の人事制度構築、理念/ビジョン浸透などを担当してきた。2018年にファンリーシュを設立してからは、スタートアップや大企業、自治体、教育機関などのさまざまな組織の戦略人事、制度構築、組織開発といった領域を外部から支援している。
25年にわたり国内外の企業の人事/組織に携わってきた志水氏は、日本が「人口増加時代」から「人口減少時代」に移ったことで、企業経営の在り方や組織と従業員の関係性が大きく変わってきたと分析する。
これはすなわち、「集団で一本の道を登っていた時代」から「主観的な幸福を重視する時代」への変化であり、「拡大/成長と効率の時代」から「持続性の時代」への変化でもあるというのだ。
その変化の兆候はすでに各所で現れている。
「例えば昨年、経団連の中西会長やトヨタの豊田社長が『終身雇用はもう守れない』と発言したことが話題になりました。また、日本電産の永守会長も今年、『利益を追求するだけでなく、自然と共存する考え方に変えるべき』と語っています。日本電産は長年、利益や効率を重視して成長を続けてきた代表的な日本企業です。そのトップである永守会長の方針転換は、まさに時代の変化を表していると言えるでしょう」(志水氏)
この流れは世界中の至るところで起きている。世界経済フォーラム(WEF:The World Economic Forum)の会長を務めるクラウス・シュワブ氏もまた、「株主至上主義から脱却しなくてはいけない」という趣旨の発言を行っており、2020年のダボス会議のテーマは「ステークホルダーがつくる持続可能で結束した世界」であった。
そして、さらに変化を加速させたのがコロナ禍、というわけだ。
「日本型マネジメント」をどうアップデートするか
多くの日本企業もこうした変化を感じ取っており、自社の組織/人材マネジメントを改革しようと試みている。
だが、そうした改革が成功しているのかと言うと、そうではないのが実状だ。なぜうまくいかないのか。そこには、日本企業がこれまでに積み上げてきたマネジメントシステムの問題があるという。
志水氏は「欧米型」と「従来の日本型」の人材マネジメントを比較し、「両者は対照的である」と分析する。
例えば、欧米型マネジメントは「職務主義」で、仕事に対して必要なスキルを持った人材を配置する。対する日本型マネジメントは「職能主義」で、人に仕事を割り振るという考え方だ。
また、報酬構造も異なる。欧米は成果により報酬や昇進が決定されるが、従来の日本型マネジメントでは統一的な賃金制度であり、年功によって昇進/昇給する。転勤や異動に対する考え方も対照的で、欧米では例外的な育成ローテーション以外は原則として本人の意思のない転勤や異動は行われないが、日本では多様な職務経験によるスキル形成を目的として転勤や人事ローテーションを行ってきた。
こうした人材マネジメントは一概にどちらが優れているというわけではない。重要なのは欧米型にしろ日本型にしろ、マネジメントの方法はグランドデザインが必要になる。全体構想、長期的な観点から壮大な図案を設計することが不可欠なのだ。先述の通り、日本型マネジメントでは転勤や異動が発生するが、企業のさまざまな部署について知っておくことは将来、経営幹部を目指す上では有益とも言える。年功序列にしても、将来は給料が上がっていくことを前提にしているからこそ納得できるのだ。総じて日本型マネジメントは”1つの企業に長く(最後まで)勤め上げる”ことを前提に長期にわたって発展してきた側面がある。
そうした背景の下に全てのマネジメントが最適化されているのだから、どこか1カ所だけを変えてもうまくいかないのは当然だ。
「だから、ある側面だけを見て”ジョブ型(職務主義)”だけを導入するといったやり方ではうまくいかないのです。もっと包括的に捉え、日本の雇用システムの強みと欧米型の活用できる部分をハイブリッドで導入していくことが大切です」
高度経済成長を支えてきた「終身雇用」という柱が崩れた今、日本型マネジメントはアップデートの必要に迫られている。しかし、だからといって日本型マネジメントの強みまで失うことはないというわけだ。