製造業におけるデータ分析および活用の重要性が高まっている。データを分析することで現状の課題を抽出し、さらなる品質改善につなげられるからだ。しかし、”効果的に”データ分析を行うとなると、それは決して容易なことではない。品質改善につながるデータとはどんなものなのか、収集したとしてそれをどう分析していけばいいのか。現場との連携や人材育成はどう進めればいいのか――など課題は山積みである。
そうしたデータ分析と活用に取り組み、大きな成果を上げているのが村田製作所である。売上高1兆5千億円、社員数7万名以上を抱えるグローバル企業はいかにしてデータ活用に成功できたのか。
11月25日にオンラインにて開催された「SAS Forum Japan 2020」では、村田製作所の高田哲史氏と吉富玄氏が登壇。同社におけるデータ分析/活用の取り組みと、データ活用に必要な人材の育成方法について講演を行った。
最小限の投資で最大の効果を得るために
村田製作所は1944年、京都府長岡京市にて町工場として創業した。発電特性を持つセラミック素材を電子部品に応用した独自製品を主力として、ラジオやTV、PCにスマートフォンなど、時代のニーズに応じた製品を開発し発展を遂げてきた。
その製品ラインナップは実に多彩だ。特にショックセンサーやセラミック発振子は世界シェアの大半を占めており、多くの電子機器や家電に組み込まれている。
「村田製作所のものづくりの特徴は原料の生産から部品の調達、組み立て、出荷まで全ての工程を自社で一貫して行うこと。そして、一つ一つの製品ごとにのべ数千項目にも上るデータを収集し、蓄積していることです」(高田氏)
収集したデータは、分析の上、主に製品の品質向上に活用しているという。同社の製品は個々の製造数量が非常に多い。よって、データ分析により不良品率がわずかでも改善できれば、大きな効果を得られるのだ。
最小限の投資で最大の効果を得るために、同社はどのような取り組みを行っているのか。高田氏は、ロス金額が高く、投資に対して品質改善効果が出やすいものに注力して結果を出すことが重要だと説明する。関係者を納得させられなければ、改善も定着も難しくなってしまうからだ。
「ロスの実態を把握することが重要です。不良品率が高くても、短期間しか製造しない製品や単価が安い製品はロス金額も低くなります」(高田氏)
さらに結果を最大化するために、高田氏はPDCAサイクルならぬ、”CAP-DOサイクル”を回している。
「データ活用は、まずC(Check:現状課題のチェック)から始まるので、CAP-DOサイクルと呼んでいます。課題を把握したら次にA(Action:行動)として課題の分析、対策を徹底的に行います。そしてP(Plan:計画)では歯止め策を立案して同工程の他品名への展開を行います。最後のDOで、他工程の製品へも水平展開していきます」(高田氏)
重要なのは「分析環境の整備」
データ分析をスピーディーに進めるには分析環境を整えることも重要だ。高田氏は「データ活用の工数の8割は『準備』」だと断言する。
前述したように、村田製作所では製造に関する豊富なデータを蓄積している。例えば工程管理システムに残る経歴データや設備制御PCに保存される履歴データ、作業者がExcelに記載する日報や作業記録などである。
しかし、それらはもともとデータ分析用に記録されたものではない。それぞれデータのフォーマットが異なっているため、そのままではうまく分析に使用できないといった問題が生じてしまう。
そこで同社では2012年から製造業向け品質管理ソリューション「SAS Quality Lifecycle Analysis」を導入。既存のシステムから独立したDBサーバを設けて、1日に1回データを収集し、分析しやすいかたちに加工して格納している。
「SASのDBはリアルタイム性には欠けるものの、列数や行数の制限がないためこれまでのシステムでは扱えなかったビッグデータもDB化できるのがメリットです」(高田氏)
村田製作所では現在、SASのDBは「利用者にとってのデータポータル」という位置付けになっており、利用したいときにすぐデータを取得できる環境が整備されている。加えて、同システムではプログラミングレスでデータ加工ができ、高度なITスキルを要しない。そのため、システム部門に毎回データ加工を依頼する必要がなくなる点もメリットだという。
また、もともと村田製作所は複数の工場をまたいで製造を行っているが、データは工場ごとに保存されるので、拠点間を超えてデータを参照するのが難しいという課題があった。
これを解決すべく、SASの分析用データベースを利用して拠点ごとのデータを1つのサーバに集約。複数拠点から同じデータを参照し、分析に使用できるような仕組みを整えたのだという。