上司と部下とのコミュニケーションにおける”掛け違い”をなくしたい――そうした想いから生まれたクラウドAIプラットフォーム「カケアイ」。その開発/運営を行うKAKEAIが2020年4月から運営するオウンドメディアが「BELLWETHER(ベルウェザー)」だ。

ベルウェザー

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管理職、そしてこれから管理職を目指す若手リーダーをターゲットにした同サイトでは、マネジメントやリーダーシップに関する読み応えたっぷりの記事が多数公開されており、いずれも特定の製品やサービスにフォーカスしたものではない。メディア運営を主事業としない企業が運営するサイトとしては、やや珍しい構成だろう。

同サイトはどのような意図で生まれ、どのように運営されているのか。KPIをどこに置き、何を目的としているのか。BELLWETHERの編集長を務める同社取締役COO/共同創業者の皆川恵美氏にお話を伺った。

BELLWETHER誕生の軌跡

BELLWETHERを訪れると、まず驚かされるのは記事のクオリティの高さだ。HR業界の著名人や企業でマネジメントに携わっているマネジャー層へのインタビュー記事がずらりと並び、どれも現場目線でマネジメントをとらえた内容となっている。

そんなBELLWETHERの最初の記事は、2020年4月に公開されている。つまり、まだサイト開設から1年も経っていない。一体どうやって、これだけのメディアを短期間で作り上げたのだろうか。そんな疑問をぶつけたところ、皆川氏は「実は……」と切り出した。

「BELLWETHERの前身となるオウンドメディアをもっと以前から運営していたんです。ほとんど個人ブログみたいなものでしたが(笑)」

皆川氏

BELLWETHERの編集長を務めるKAKEAI 取締役COO/共同創業者 皆川恵美氏

BELLWETHERの前身となった「Key for Management(キーフォーマネジメント)」は、KAKEAI が創業した2018年からスタートし、皆川氏がほぼ1人で運営していたという。当時のターゲットは、KAKEAIの未来のユーザーでもある人事担当者だ。

「(創業した頃は)『KAKEAI』という名前で検索してくれる人はほとんどいないので、以前のサイトでは『心理的安全性』や『従業員満足度』のようなマネジメントにまつわるキーワードを入れたSEO狙いの記事を作っていました」

前身

Key for Managementでは、検索流入からまずは「KAKEAIを知ってもらうこと」が1つの目的だった

それから事業が拡大していくなかで、ターニングポイントになったのが2020年初旬に発生した新型コロナウイルス感染症の拡大だ。ダイレクトマーケティングが難しくなり、経済市場は停滞した。こうした状況を踏まえ、中長期的に効く施策について議論するなかで、「バタバタしているときにはなかなかできないことをやろう」という発想からオウンドメディアのリニューアルに白羽の矢が立った。

「改めて、読者ターゲットについて議論しました。前身となるメディアは人事の方をターゲットにしていましたが、リニューアル後は『現場のマネジャー層の役に立つこと』をコンセプトに据えました」

新たなサイト名は社内で議論を重ね、投票で「BELLWETHER」に決まった。意味は「変革者」。その名の通り、”これまでのやり方を変えていきたいという意思を持つ新しいリーダー”が読者ペルソナとして設定された。ロゴのデザインからWordPressを使ったサイトの構築に至るまで、全て内製だ。

記事カテゴリも一新した。特徴的なのは、カテゴリ名を単語ではなく、「マネジメントを変える」「リーダーとして臨む」といった短文にしていること。ここには、「組織をより良く変えていきたいと願うマネジャーやリーダーに何かしらヒントを届けたい」というKAKEAIの想いが込められている。

皆川氏

再出発したBELLWETHERは、インタビューを中心とした質の高いコンテンツ制作に舵を切った。皆川氏は現在、BELLWETHERの編集長としてサイトのクオリティコントロールを担う。記事は一部の寄稿記事を除いて全て内製しており、企画から取材/撮影、執筆に至るまで全工程を社内のメンバーが行っている。皆川氏も含め、全員本業と並行しての運営だが、「知らない人に会って話を聞くことに抵抗がないメンバーが多い」という。

取材対象の選定は慎重に行われる。「上から押し付けるマネジメントではなく、個々のメンバーの違いと良さを引き出していく」というKAKEAIのサービス理念に共感してくれる人物でなければ、取材で話してもらった内容とKAKEAIの思想にずれが生じる可能性があるからだ。

そうした点を踏まえて「この人なら」と思う人物をメンバーがピックアップし、社内でテーマを検討した上で取材を依頼する。取材した相手が次の取材相手を紹介してくれることもあり、「BELLWETHERを通して人の縁がつながっている」と皆川氏は話す。

現場の”生の声”を伝えるメディアに - KPI達成に向けた「課題」

順風満帆に見えるBELLWETHERだが、課題がないわけではない。

一般にオウンドメディアは、売上に直接つながりにくい取り組みだ。BELLWETHERは基本的に全て内製しているのでそれほどコストがかかっていないとはいえ、従業員の時間を使う以上、何らかの成果は上げる必要がある。

「BELLWETHERのKPIは、サービスへの流入です。当初はよりメディアらしく見せたいと思い、KAKEAIのブランドバナーも入れていなかったのですが、9月からバナーを追加し、記事の下にサービスへのリンクを張りました。今はUUやPV、滞在時間と共に、ここからの流入数も見ています」

現在のところはまだ、BELLWETHERがサービスの売上に明確に貢献できているわけではない。今後はBELLWETHERを育てながら、サービスサイトへの流入を伸ばすための施策を検討していくという。

また、SNSの運用も課題の一つだ。投稿内容の作成は編集メンバー全員が適宜行っているが、今のところは記事更新の告知に留まっている。

「今後はTwitterで記事テーマを募るといった試みもやっていきたいと思っています。取材相手の方がSNSで宣伝してくれてPVが大きく伸びたことがあるので、SNSでの拡散の可能性には期待しています」

皆川氏

今、BELLWETHERでは、およそ3カ月程度のタームでPDCAを回しているという。直近では9月末頃に振り返りを行った結果、記事の本数ではなく個性を際立たせる方向で展開していくことを決めた。「現場の生の声を伝えるメディアにしていきたい」と皆川氏は語る。

「私たちは、サービス展開において現場のマネジャーのナレッジを重視しているのですが、オウンドメディアでも同じように考えています。マネジメントに向き合っている人が今、何を考えているのかに価値があると思っているので、(オウンドメディアは)そうしたテーマで作った記事にどういう反応があるのかを知ることができる”実験の場”でもあると捉えています」

オウンドメディア運営を成功させるには?

BELLWETHERの運営を通して、皆川氏は「オウンドメディアを続けること」の大変さを肌で感じている。

「オウンドメディアは、そんなにすぐ数字的な成果が出るものではありません。ですから、『オウンドメディアを続ける意味をどうやってつくっていくか』まで設計しておかないと、会社のなかでどんどん優先順位が下がってしまいます」

指標の一つとして数字はもちろん重要だが、それだけでオウンドメディア運営を長続きさせることは難しい。数字以外の面でどれだけ意義を見い出せるかが、オウンドメディアの運営を成功させるポイントだ。

「例えば、取材というかたちなら、普通は会えないような方に会ってお話を伺えることもあります。それが楽しいというメンバーもいて、モチベーションアップにつながっています。そうした要素も、BELLWETHERの運営意義の一つです」

皆川氏は、「オウンドメディア運営において重要なのは『メディアとしての意思』」だと強調する。ただ漠然と運営するだけでは、PVなどの数字が上がらなくなった時点で「失敗」だと判断されてしまう。メディアとして何を伝えたいのか、そしてそれがどんなかたちで本業に好影響をもたらすのかという点を明確にできれば、そのオウンドメディアはいずれ他社がまねできないブランド価値を企業にもたらす存在に昇華するはずだ。

今後はメルマガ配信や会員登録など、読者にリーチできる手段を増やしていくというBELLWETHER。皆川氏の目はすでに「次」のフェーズを見据えている。