働き方改革の一環として、また新型コロナウイルス感染症の予防対策として、リモートワークを導入する企業が急増しているが、頭を悩ませている企業も少なくない。「コミュニケーションがとりにくくなった」「どう個人評価すればいいかわからない」「そもそもリモートワークに関する環境や制度設計が間に合っていない」……など、多くの企業がさまざまな課題に直面している。

リモートワークを円滑に導入し、事業成長につなげていくにはどのような組織づくりが必要なのだろうか。8月4日に開催されたマイナビニューススペシャルセミナー「在宅ワーク成功の手引き - 業績アップに向けた対策とツール」に、かんたん募集サービス「bosyu」を運営するbosyu代表取締役であり、創業時からリモートワークを実践してきたキャスター社で取締役COOを務める石倉秀明氏が登壇。リモートワークを通じて事業成長を実現してきた組織戦略について話した。

リモートワークをスムーズに取り入れるために

キャスター社は「リモートワークを当たり前に」をミッションに掲げている。「カフェで100人が座っていたら、半分はリモートワークをしているような世界をつくりたい」と石倉氏は語る。

同社が提供する主要サービスは、オンラインアシスタントの「CASTER BIZ」。ChatworkやSlackを活用して秘書業務、人事、経理、総務などのアシスタント業務を発注可能なBPO(Business Process Outsourcing)だ。加えて展開する在宅派遣事業では、経理、人事、翻訳、コールセンターなどの人材を在宅のままフルリモートで派遣。特にコロナ禍以降、需要が増えているという。

いずれの事業もリモートをコンセプトにしているが、キャスター社自体も約5年半前の創業時から従業員のほぼ全員がリモートワークを行っている。その分布と従業員数は、45都道府県と15カ国で約700名にも上り、「世界最大級のリモートワーク企業だ」と石倉氏は胸を張る。

石倉秀明氏

キャスター社 取締役COO/bosyu 代表取締役 石倉秀明氏

では、これまで”通勤するのが当たり前”だった企業が、リモートワークをスムーズに取り入れ、キャスター社のように運用していくためには何が必要なのだろうか。

石倉氏が挙げるポイントの一つが就業規則だ。そもそも、就業規則でオフィス以外の場所で勤務することが認められているかどうかはリモートワークの準備段階で確認する必要がある。ほとんどの場合、「会社の指示があった場所」のような文言があるのでクリアできるはずだと石倉氏は言う。

次に環境を整える。リモートワークで必要なのはPCと通信環境だ。社用PCは貸与かつ持ち出し可能になっているか、従業員の自宅に通信環境は用意されているか。通信環境がない場合は会社からWi-Fiなどの貸与が可能かどうかをチェックする。

セキュリティも重要だ。VPN環境やパスワード管理ツールの導入などをしっかりと行う必要がある。加えて従業員に対してセキュリティ研修や運用ルールの周知なども徹底しなければならない。

ハード面の環境だけでなくソフト面の環境も重要となる。リモートワークの必須ツールとして石倉氏が挙げるのはビジネスチャットツール(Slack、Chatwork、Teamsなど)やオンライン会議ツール(Zoom、Skypeなど)である。なるべくクラウドツールを使用することで、より場所に依存せず業務を行うことができるからだ。

ここまで環境を整えてもリモートワークに踏み切れないケースがある。原因はマネジメント層のマインドだ。「自由な働き方を認めてしまうと、従業員がサボるのでは?」と考えてしまうのである。「そのような性悪説は撤廃しなければならない」と石倉氏は指摘する。

「リモートワークでは『行動のマネジメント(どんな行動をとったか)』ではなく、『成果のマネジメント(どんな成果を出したか)』に切り替える必要があります。成果でしっかりと評価する考え方にマインドチェンジしなければなりません」

実は、キャスター社はホラクラシー型組織でもある。役職が少なく従業員同士の関係はフラット。雇用形態も自由でコアタイムなしのフルフレックスを採用している。近年、同一労働同一賃金が法律化されたが、それ以前から同様の制度を導入しており、経営に関わる数値や給与も全公開するなど、組織としての透明性が非常に高いのが特徴だ。こうした組織体制も、柔軟な働き方を実現する上で大きく寄与していると言えよう。