スマートフォンの普及により消費者を取り巻くコミュニケーション環境が大きく変わっていくなか、商品やサービスを通じて消費者に提供する「体験価値」に注目が集まっている。企業には、さまざまなデータやテクノロジーを活用し、より良い体験を顧客に提供することが求められるようになってきている。
7月9日に開催されたオンラインセミナー「マイナビニュースフォーラム 2020 Summer for データ活用」では、特別講演にライオン ビジネス開発センター エクスペリエンスデザイン デジタルコミュニケーション開発チーム ディレクター 比留間徹氏が登壇。同社の事例を基に、体験価値に焦点を当てた顧客コミュニケーションについて解説した。
なぜ今、「体験価値」なのか?
そもそも、体験価値とは何だろうか。 比留間氏は、「顧客インサイトにアプローチして、顧客が真に求めるものを提供すること」であるとする。つまり体験価値とは、言語化されない欲求とも言える。
ではなぜ今、体験価値が注目されているのだろうか。かつては大量生産/大量認知/大量消費の社会が成り立っており、情報を得るディスプレイと言えばTVが主だった。しかし、今ではスマートフォンをはじめ、身の回りは情報収集のためのディスプレイであふれている。消費者は、自分に必要な情報だけを取捨選択するようになってきているのだ。TV CMを打つだけでターゲットに製品情報を届けられる時代ではなくなってきたことがうかがえる。
さらに比留間氏は、プロダクトの均質化も影響していると指摘。「どの商品もクオリティが高く、例えば生活消費材であれば、良い香りがして、除菌もできて、肌にも優しくて……といった機能を訴求するだけでは差別化がしにくくなっている。特にライオンが提供している生活消費材のような低単価商品は、消費者の気持ちを動かすことが難しい。従来のファネル型コミュニケーションでは限界がある」と、体験価値に焦点を当てることの重要性を説く。
データから読み解くべきは「カスタマージャーニー」
ライオンでは、さまざまなデータを取得し、消費者の日々の生活行動や感情からインサイトを導き出そうというチャレンジをしている。「適切なターゲット」に「適切なコンテンツ」を「適切な時と場所」で提供していくことが、その目的だ。
比留間氏は、データ活用の方針について「消費者のことを知る方法として、これまでも現在もアンケートやグループインタビューなどを日々行ってきたが、データから読み解きたいことは、カスタマージャーニー。生活行動やインサイトをデータから導き出して、それに合わせたコミュニケーション戦略を考えていくという命題がある」と説明する。
ライオンとして具体的に取り組んでいることは、大きく分けて「DMPによるデータ収集と統合」「アナリティクスのトライアンドエラー」「データセントリックなファクト抽出」「ファクトのさらなる分析/成形」の4点だ。オウンドメディアやブランドサイトから得られる1stパーティデータ、およびSNSのデータをはじめとするアクティビティデータを繋げながら、3rdパーティデータで説明変数を増やし、分析していくという流れになる。
「消費者がどういうメディアのどのようなコンテンツやカテゴリを閲覧しているかというオンライン上での行動データや、購買ジャンルや購入チャネルといった支出傾向、旅行やレジャー、外食などの趣向性から、日々の買物行動や特徴的な生活行動、類推される生活などを断片的なファクトとして抽出していき、実際に商品を使用する日常の生活シーンの仮説を立ててインサイトを獲得し、IMC(Integrated Marketing Communication)に活かしていくことが理想としているプロセスです」(比留間氏)