DataRobot社は7月14日~8月31日、オンラインにて年次イベント「AI Experience 2020」を開催している。本稿では、同社のチーフデータサイエンティスト シバタアキラ氏によるキーノートの様子をお届けしよう。
データは人の行動を変えていくもの
毎日報道される新型コロナウイルス(COVID-19)の感染者数。多くの人々がここまで毎日のようにデータを見て過ごしてきたことはこれまでになかったのではないだろうか。感染者数はもちろんだが、人流データや入院患者数などさまざまなデータを基に考え、外出を減らしたり、在宅勤務に切り替えたりと自身が取る行動に反映させているケースは決して少なくないはずだ。
シバタ氏は「データは今の状況を理解するだけでなく、人々の行動を変えていくものであり、社会全体がより賢い選択/意思決定をしていくために役立つもの。コロナ禍を受けて、そうしたことを多くの方が実感を持って感じていると思う」と話す。
一方で、オンライン化が急速に進んだことで、デジタル化や効率化が遅れている業務が多く残されているという課題も浮き彫りになりつつある。「これを生き残るチャンスにしていくためには、テクノロジーが重要な意味を持っている」とシバタ氏。今回のイベントのテーマに「変化の時代にAIのインパクトは加速する」と掲げられているように、「AIは現在必要とされているテクノロジーの中心にある技術だ」と主張する。
「変化の時代を言い換えると、今までの人間の経験と勘が通じない新しい時代だと言えます。この時代にこそ、予測を行うためのAI技術が必要です。AIは、データを使ってより予測の精度を上げて意思決定するためのツールなのです」(シバタ氏)
AI導入はなぜ上手くいかないのか?
流通から小売、製造業、金融/保険、通信、ヘルスケアまで、多種多様な業界において、コアにある業務がAIで自動化されつつある。しかし、「全ての企業がAIで成功しているかと言うとそうではない」とシバタ氏は指摘する。PoCばかりやっていて疲れた、導入してみたが思ったような効果が得られなかったなど、ネガティブな感想を持っている人も少なからずいるはずだ。
シバタ氏は、この原因として「AIの技術に詳しい人材がいない」「ビジネスと結びつかない」「社内でのAIプロジェクトの進め方がわからない」という3つの要因を挙げた。そのために、多くの企業においてAIは実験的なものであるという位置付けから抜け出せず、”一時的なAI”になってしまっているという。
シバタ氏曰く、こうした状況から脱するために必要なのは「信頼できる結果を継続的に得ること」だ。同氏は、「AIは常に正確なものを教えてくれるわけではない。どう使うのかということを考えるにあたっても、信頼できる情報を提示することが重要」だと強調する。
確かに、AIによる予測結果が極端に上振れ/下振れしてしまったり、過去に取得したデータでモデルを構築したものの最新のデータは全く異なる傾向を示していたりといったケースは多い。しかし、一度作ったモデルをそう簡単には作り変えられず、結果的に、AIではなく人間が作ったルールによる意思決定のほうが精度も高く運用しやすいという結果に陥りがちだ。