「『働き方改革』を目指すのはやめてください。働き方改革は、目的ではなく手段」
――6月10日に開催されたWebセミナー「マイナビニュースフォーラム 働き方改革 Day 2020 Jun」の基調講演で、登壇したクロスリバー 代表取締役社長/キャスター 執行役員 越川慎司氏はこう言い切った。
現在、企業に強く求められているのは、労働時間の削減ではなく時間を生み出して利益をアップする活動にシフトすることだ。講演では、パナソニック コネクティッドソリューションズ社(パナソニックCNS社)が実施した「爆発的生産性向上プロジェクト」の取り組みを例に挙げながら、その具体的な方法について語られた。
テレワーク成功の「3つの秘訣」
コロナ禍を受けて多くの企業がテレワークの導入を進めた。緊急事態宣言解除後にはオフィスへの出社に切り替える企業も増えているが、越川氏は「テレワークは選択肢の1つとしてぜひ残していただきたい」とアドバイスする。
そもそもコロナ禍以前、テレワークは「前例がない」「事例がない」といった理由からなかなか普及が進まなかった。しかし、「変化の激しく不確実な時代においては、前例や事例がそのまま通用するということはない。自分たちで事例をつくっていかなければならない」と越川氏は語る。クロスリバーが緊急事態宣言後に実施した調査では、テレワークを導入した315社のうち87%が「意外とできた」と回答したという。まずは行動を変えることの重要性が伺える。
さらに、越川氏は、テレワーク成功の秘訣として、「1. 会話を増やす文化」「2.行動目標を自ら見せていく姿勢」「3. 価値を評価する仕組み」の3つを挙げた。
「『会議』を減らして『会話』を増やすことが大事です。また、各従業員が行動目標と進捗を見せていくようにしなければ、マイクロマネジメントが発生してしまいます。日本企業も労働時間ではなく、成果で評価を行う『ジョブ型』に移行しつつあるというニュースがありますが、成果を評価することを当たり前にしてほしいと思います」(越川氏)
いかに「心理的安全性」を確保するか
実際にテレワークを行ってみて、「1人で仕事をするのはつらい」と思った人もいるのではないだろうか。1人では解決できないような複雑な課題へ対応するときのために、リモートでもチームが機能するようにしておかなければならないのが昨今のテレワークにおける課題の1つとなる。
そうした課題に対処できる目指すべきチーム像として越川氏が挙げるのは、「成果を出しつつ人間関係が良好」なチームだ。「人間関係が良好なだけではただの仲良しこよしチーム。一方で、成果だけを求めてしまうとドライなチームになってしまう」と越川氏。これらを両立させるために必要なのが「心理的安全性」だとする。
この主張の根拠として越川氏は、「A. 上司と部下が2週間に1回程度対話を行い心理的安全性が担保されたチーム」「B. 定期的な対話がなく『コミュニケーションがうまくとれていない』と思っている人が6割いるチーム」を比較したクロスリバーによる調査結果を紹介した。
「Aのようなチームは忖度の必要がなくなり、会議時間および総労働時間が少なくて済みます。また、働きがいを強く感じ、目標を達成しやすい傾向にあります。一方で、Bは資料作成に取られる時間が長いだけでなく、病休/精神疾患が多く、離職率が高いという傾向がありました。さらに、『コロナ禍のなかでテレワークがうまくいっているか?』という質問に対し、Aは89%の企業が『はい』と答えましたが、Bで『はい』と答えた企業は8%でした」(越川氏)
心理的安全性の確保は、イノベーションの創出にも重要だ。越川氏がこれまでにサポートしてきた19件の新規事業は、会議室ではなく、会議室近くの廊下の「今ちょっといいですか?」といったカジュアルな会話の中から生まれていることがわかったという。同氏は「重要なのは『今ちょっといいですか?』と言えるような文化と関係性。これが浸透している企業はテレワークも機能している」と説明した。