今回は、SAFeのなかの各レベルで定義されているロール(役割)について見ていきます。加えて、そのロールやチームが集まって構成される開発体制「アジャイルリリーストレイン(ART)」「ソリューショントレイン」についても説明します。
組織のアジリティを向上させ、維持するために、どのようなロールと組織構成でSAFeを実行するのか、全体像をつかみましょう。
「共通のロール」と「レベルごとのロール」
SAFeでは、「全体に共通のロール」「レベルごとのロール」「必要に応じて整備するロール」が定義されています。
SAFe 5.0のBig Picture(全体像)/出典:米Scaled Agileの公式サイト |
このうち全体に共通のロールとしては、SAFe導入/実践による組織変革を推進することを目的に、組織基盤(制度や仕組み)の整備をするためのロールと、個人の意識改革を促すロールが定義されています。
ロール名 | 説明 |
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組織内に変革をもたらすため、組織の制度や仕組みの構築といった側面と、意識改革や教育といった側面の両方を変えていく「変革エージェント」によって構成されるチームです。 ほかの関係者の教育やSAFeの運営/改善活動のサポートを行うため、変革に対する意思とビジョン、必要な組織内での権限を持ったリーダーが適任です。具体的には、SAFe導入対象組織の管理者層やPM、社内ルールの調整が可能な人(PMO、人事など)をアサインします |
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SAFeのコンサルタント資格「SPC(SAFe Program Consultant)」を持ったSAFe有識者であり、組織に対してSAFeの導入の指導/支援を行います。プロジェクトメンバーがScaled Agile Inc.(SAI)の開催するSPC研修を受講して資格を取得するか、SAI Partnerから要員支援を受け、人材を確保します |
レベルごとのロール
SAFeでは、前回紹介した3つのレベル「エッセンシャルレベル」「ラージソリューションレベル」「ポートフォリオレベル」のそれぞれに、必要なロールが定義されています
エッセンシャルレベル
エッセンシャルレベルは複数のアジャイルチームと、そのチームを取りまとめる「ARTロール」から構成されています。アジャイルチームのロール(チームロール)は、Scrumのロールと同じです。Scrumのロール詳細については、スクラムガイドを参照してください。
チームロール名 | 説明 |
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プロダクトオーナー | アジャイルチームのバックログ(要件。チームバックログ)の所有者として、要件の定義/優先順位付けに加え、開発された成果物に責任を持ちます |
スクラムマスター | チームが自己組織化し、価値を届けることが可能になるよう支援するサーバントリーダーです。特にチームがまだ成熟していない場合は、チームのイベントのファシリテートや、障害の除去、エスカレーションなどを行います |
チームメンバー | 機能やコンポーネントの定義、開発、テスト、デプロイができる自己組織化された3~9名のメンバーです。ソフトウエア設計者、テスター、エンジニアなど要件の実現に必要な専門メンバーが機能横断的に含まれ、相互に知識共有しながら多能工的に活動します |
また、アジャイルチームを取りまとめるARTロールは以下の通りです。
ARTロール名 | 説明 |
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ビジネスオーナー | ビジネスに対する責任を持つ小規模なグループで、長期的な視野を持ち、問題発見と解決する力、障害を積極的に排除する観点で、組織とプロダクトの両方の変革を先導します。対象ビジネスに関する意思決定権者が担当します |
プロダクトマネジメント | ARTのバックログ(プログラムバックログ)のフィーチャー(プロダクトの機能的な要件)の定義、優先順位付けの責任を持つとともに、ARTの成果物に対して責任を持ちます。ビジネスを実現するためのプロダクト(システム)に関する仕様やリリース戦略の意思決定権者が担当します |
リリーストレインエンジニア(RTE) | ARTにおけるサーバントリーダー/コーチであり、ARTのプロセスの促進/実行、イベントのファシリテート、障害の除去やエスカレーションなどを行います。ART全体に対するスクラムマスターと言えます。複数のScrumチームの依存関係を整理しながら、課題解決をファシリテートできる人をアサインします |
システムアーキテクト | システムの共通技術や全体的なアーキテクチャを定義します。また、今後フィーチャーを提供する上で必要となるアーキテクチャやインフラ観点の活動や作業(イネイブラー)の定義も行います。アジャイル開発に適したアーキテクチャのグランドデザインができる人をアサインします |
ラージソリューションレベル
ラージソリューションレベルのロールは、以下の通りです。
ロール名 | 説明 |
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ソリューションマネジメント | ソリューショントレインのバックログ(ソリューションバックログ)の開発に必要なケイパビリティ(ソリューションの機能的な要件)の定義、優先順位付けの責任を持つほか、ソリューショントレインの成果物に対して責任を持ちます。複数のアジャイルプロジェクトを統括し、複数システム(プロダクト)を組み合わせたソリューションの戦略を決定するポジションです |
ソリューショントレインエンジニア(STE) | ソリューショントレインにおけるサーバントリーダー/コーチであり、ソリューションのプロセス促進/実行、イベントのファシリテート、障害の除去やエスカレーションなどを行います。ソリューショントレイン全体に対するスクラムマスターとも言えるでしょう。複数のアジャイルプロジェクト間の整合を取りながら、課題解決をファシリテートできる人をアサインします |
ソリューションアーキテクト | ソリューショントレイン内の複数のART間で共有される共通技術やアーキテクチャを定義します。また、今後ケイパビリティを提供する上で必要となるアーキテクチャやインフラ観点の活動や作業(イネイブラー)の定義も行います。対象ビジネスを構成する複数システムのアーキテクチャを検討できる人をアサインします |
ポートフォリオレベル
ポートフォリオレベルのロールは、以下の通りです。
ロール名 | 説明 |
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エピックオーナー | 戦略テーマを基に、ポートフォリオビジョンとバックログ(ポートフォリオバックログ)のエピック(組織の取り組み事項)の定義に責任を持ちます。また、ARTやソリューショントレインのロールと協力し、エピックをフィーチャーやケイパビリティに分割します。さらに、組織全体のバックログの優先順位付けと一貫性/整合性の確保を行います。SAFe導入対象の組織戦略やビジネス方針を具体化できる人をアサインします |
リーンポートフォリオマネジメント | 個人のロールではなく、組織幹部、ビジネスオーナー、エンタープライズアーキテクト、RTE、スクラムマスターなど、さまざまなロールのメンバーで構成されるチームです。SAFeの組織において最上位の意思決定と財務に関する責任を持ち、組織の戦略立案と投資財源の確保、予算配分の決定、組織全体のプロセスの実行管理、組織の成果に関する定量的な報告、組織のコンプライアンスに関するガバナンスなどを行います |
エンタープライズアーキテクト | SAFe適用組織全体で共有される共通技術やなアーキテクチャを定義します。また、今後ケイパビリティを提供する上で必要となるアーキテクチャやインフラ観点の活動や作業(イネイブラー)の定義も行います。組織全体のアーキテクチャを検討できる人をアサインします |
必要に応じて整備するロール(スパニングパレットのロール)
「スパニングパレット」とは、Configurationで補いきれないが組織状況に応じて必要となるロールや成果物などです。SAFe 5.0のBig Pictureでは、右側に書かれています。スパニングパレットのロールは、以下の通りです。
構造化された組織体制 - ART、ソリューショントレイン
各ロールの解説にも登場したARTやソリューショントレインは、顧客に価値を届けるためにプロダクトやソリューションを開発する体制の名称です。それぞれについて以下にまとめます。
ART、ソリューショントレインと各レベルの関係を図示すると、以下のようになります。
なお、これらの開発体制には、ポートフォリオレベルのロールは含まれません。
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今回は、SAFeのロールとART、ソリューショントレインについて説明しました。Lean-Agileの考え方に基づきながら、組織全体の意思決定やチーム単体よりも大きなプロダクト/ソリューションの開発を行うため、SAFeの原則にもあるように「意思決定を分散させる」ためのロール構成になっています。また、全体に組織のLean-Agileの考え方を浸透させるためのLACEというチーム(共通ロール)があり、彼らが組織の変革を先導するところもポイントです。
次回は、「SAFeの成果物/ツール」と題して、バックログの管理方法や階層ごとのバックログの関係性、チーム間での依存関係を可視化するツールについて見ていきます。
著者紹介
近藤陽介 (KONDOH Yohsuke) - NTTデータ システム技術本部 デジタル技術部
Agileプロフェッショナルセンタ
総合的な顧客体験・サービスの創出のための「方法論」、それに必要な技術・ツール・環境をすぐに利用できるようにする「クラウド基盤」、そして、それらを十分に活用するための「組織全体にわたる人財育成やプロセス改善のコンサルティング」を提供することでDXを支援するデジタル技術部に所属。
業務では、このうちの「コンサルティング」において、大規模アジャイルフレームワーク「Scaled Agile Framework(SAFe)」などを活用し、DXを実現しようとする企業が抱える課題を解決するためのアプローチを共に考え、お客様の組織/プロセスの変革を支援している。