自社の求める知見を持った社外の専門家にスポットで相談ができれば——新規事業や研究開発テーマを立ち上げる際などに発生するこうした企業のニーズを満たすため、スポットコンサルティングサービスを展開するビザスク。2020年3月には、東証マザーズ市場への上場を果たした。創業は2012年。当時、スポットコンサルのような知見のマッチングサービスは海外では存在していたものの、自分の知見を積極的に他人へ伝えようとする文化のない日本においては普及の兆しはなかった。

そうした状況のなか、ビザスクがあえてスポットコンサルに目をつけたのは、代表取締役CEOの端羽英子氏が起業に向けてさまざまなビジネスモデルを模索するなか、とあるアイディアを専門家に酷評されてしまったことがきっかけだったという。今回は、起業の経緯や今後の展望も踏まえて、ビザスクが掲げるビジョン・ミッションについて端羽氏に聞いた。

代表取締役CEO 端羽英子氏

こてんぱんに叩きのめされた経験がアイディアの種に

ゴールドマン・サックスにて投資銀行業務を経験した後、出産を機に米国の公認会計士を取得し、日本ロレアルへ入社。米国へ留学する家族に同行した際に自身もMITにてMBAを取得。その後、ユニゾン・キャピタルにてプライベート・エクイティ投資に携わる——華々しい経歴の裏で、端羽氏は起業のタイミングを考えていたという。

「MBA取得後には起業しようと考えていましたが、当時はまだ自信がなかったため、なるべく経営に近い仕事をしながら実力を身に付けたいと考え、投資事業に携わることにしました。仕事は思いがけず楽しく自分に合っていたので、結局5年間ほど続けましたね。当時の会社にもいずれ起業をしたい旨は伝えていましたが、ビジネスモデルができるまでは続けてみたらと言ってもらえていたので、起業後の2012年7月まで所属していました」(端羽氏)

この間に端羽氏はさまざまなビジネスモデルを検討した。特に、もともと柔軟な働き方や個人が活躍できるという世界に興味があったなか、『SHARE』という書籍を読んだことをきっかけにAirbnbやUberのビジネスについて調べ、個人のスキルや知見をシェアできるようなビジネスを模索していたという。とはいえ、エンジニアやデザイナーなど専門職のスキルシェアという観点では、当時すでに国内にもクラウドソーシングプラットフォームが存在していた。

そこで端羽氏はまず、スキルではなくモノに着目した。たとえば「熊本出身者がおすすめするお土産」といったように、知見のある人が商品を推薦するキュレーションECサイトを立ち上げることを考えついた。ただ、このアイディアを同僚に話したところ、複数のWebサービス立ち上げ経験のある人にプレゼンしてみるよう促され、そこで1時間に渡ってダメ出しされてしまったという。

しかし、端羽氏はただでは起きなかった。この経験を新しいビジネスアイディアにつなげたのだ。「ECサイトのアイディアはこてんぱんに叩きのめされてしまいましたが、その1時間はとても貴重に感じたんです。この方にお金を払ってもよいのでは、と思えるくらいでした。それをきっかけに、モノはいらないけれどその人ならではの知見がほしいというニーズはある、そして、スポットコンサルであればそのニーズを満たすことができるのではと思い至りました」と、ビザスクのビジネスモデルのアイディアに出会ったきっかけを振り返る。

共同創業者の思いを盛り込んだ「カルチャーブック」を制作

その後、端羽氏はアドバイザーのデータベース化から着手。そして、2013年10月のサービス提供開始から約6年が経ち、2020年1月時点でデータベースに登録されているアドバイザーの数は500業種、10万人。累計マッチング実績件数は4万7000件にものぼる。

サービス提供開始直後は働き方改革以前だったこともあり、「副業にあたるのでは」「本業に差し障りがある」など否定的な意見が多く集客に苦労したというが、イベントに参加するなどして知り合い伝手で地道に登録者を増やし、2014年、2015年に資金調達を実施。その後は着実に成長を続けてきた。

ビジョン・ミッション・バリューを策定したのは、メンバーの人数が10人を超えた2016年のタイミングだ。

<VISION>
世界中の知見をつなぐ

<MISSION>
組織、世代、地域を超えて、
知見を集めつなぐことで、
世界のイノベーションに貢献する

「会社として大事にしている考えは創業時から社内イベントなど事あるごとに伝えてきたつもりでしたが、メンバーの数が増えていくことで誤解を呼んだり理解してもらえなくなったりするリスクが出てきました。そこで、きちんと明文化して社内のメンバーに伝えられるようにするため、ビジョン・ミッションを含め社内の文化をまとめた『カルチャーブック』を冬休みの宿題として制作することにしたんです」(端羽氏)

創業者の思いを盛り込んだものにすべきだというメンバーからの意見もあり、ビジョン・ミッション・バリューはすべて、端羽氏と共同創業者のCTO花村氏の2名で作り上げたという。

「創業時からずっと2人でディスカッションしてきたので、新しい何かを思いつく作業をするというよりは、そのときに大事にしているものを改めて言葉にして書き上げていき、細かい表現をすり合わせていく形で進めました」と、端羽氏はその制作過程を振り返る。

社員とともに育ててきたバリュー

<VALUE>
- 初めから世界をみよう
- 一流であることにこだわる
- 圧倒的に成長するサービス
- プライドはクソだ
- 広める努力は全員で
- 自由を自覚しているか

「自分たちらしさ」にこだわったというバリュー。カルチャーブックの初版完成時には5つだったというが、2018年の全社合宿で「自由を自覚しているか」が新たに追加された。

「このバリューの言葉は、2つの意味を含んでいます。1つは、自由には責任が伴うということ。もう1つは、変える自由があるということ。行動するかしないか、一歩踏み出すか出さないか、ということは当社においては個人の自由と自覚に委ねられています。オーナーシップを持とう、といったような考え方に近いかもしれません。窮屈に思うことがあるのであれば、言わないで黙っていたり、文句を言ったりするのではなく、変えようという意志を持ってほしいという意味を込めています」(端羽氏)

オフィス内にもバリューを掲示。常に意識して行動しようという意図が汲み取れる

これがトップダウンではなく、社員から出てきた言葉であるというのも興味深い。社員には大企業から転職してきているメンバーも多く、ルールとは従うものだという価値観を持つ人も多いなか、ルールは変えていくものであるというスタートアップカルチャーを醸成するものでもあるだろう。

上場後も「とにかく大きくなりたい!」

今回取材したのは、上場直前の2020年2月。そこで最後に、端羽氏に上場後の意気込みを語っていただいた。

「大きくなりたいですね。ビジネスの文脈でインフラとなるようなプラットフォームにしていきたいので、とにかく大きな存在になること、取引案件やユーザー数を伸ばし、ビザスクをみんなが知っている状態にしていくことが大切だと考えています。

そして、私たちのサービスによって、ユーザーだけでなく社員も含めさまざまな人が元気になるような世界観を作っていきたいです。元気になるということは、新しいものにチャレンジしやすくなるということ。そのためには、自分たち自身がイノベーティブな組織でいることが重要です。ビザスクを使うと新しいものに出会える、という体験はユーザーだけでなく社員にも提供すべきだと思います。私自身、チャレンジすることにオープンでありたいですね」(端羽氏)

現状は、ビザスクが企業とアドバイザーを仲介してスポットコンサルの提供をサポートする「ビザスクinterview」の売上がメインだが、さらなる拡大に向けては、セルフマッチング型の「ビザスクlite」や2018年から開始したWebアンケートサービス「ビザスク expert survey」などの新商材を盛り上げていくことも必要だろう。また、同社は、海外の知見を得たいという企業のニーズ拡大に合わせて、2020年1月にはシンガポールに初の海外オフィスを構え、グローバル展開にも力を入れているところだ。「とにかく大きな存在」になるために、ビザスクはこれからも走り続ける。