あらゆるビジネスの根幹にはテクノロジーがあるといっても過言ではない時代。エンジニアの重要性はさらに増しており、彼らのパフォーマンスをどれだけ引き出せるかがビジネスの成長のカギとなる。

しかし、大規模な組織になるほどエンジニアのモチベーションを保つのは難しい。業務が細分化し、各人のパフォーマンスを正しく評価することができなくなりがちだからだ。

そうしたエンジニアのマネジメントについて、日本を代表するテック企業はどのように考え、実践しているのか。

2月20日に開催された第137回IT Search+スペシャルセミナーでは、LINE、サイバーエージェント、DMM.comからCTO、あるいはCTO相当職のキーパーソンが登壇。自社におけるエンジニアのマネジメント施策について語った。

(写真左から)LINE 上級執行役員 池邉智洋氏、サイバーエージェント 取締役(技術開発管轄)長瀬慶重氏、DMM.com CTO 松本勇気氏

各社がつくる”エンジニアのための環境”

そもそも「CTO」とはどのような役割を担う役職なのか。

かつてライブドアで執行役員CTOを務め、現在はLINEの上級執行役員であり、LINEのファミリーサービスの開発統括を担う池邉智洋氏は「LINEでは人が資本。優秀な人が能力を発揮できる環境整備をするのがCTOの仕事」だと話す。これにサイバーエージェント 取締役(技術開発管轄)の長瀬慶重氏も同意し、「(当社では)2006年から”技術のサイバーエージェント”を標榜しており、現在は1,000人以上の技術者が集まっている。彼らの力を最大化することがミッションだ」と説明した。

DMM.comのCTOである松本勇気氏は、そうした役割に加えて「ソフトウエア事業で勝つためにやるべきことをやるのがCTO」だと見解を示す。「数字にしても、単に財務諸表だけでなく、もっと深いところまで見る必要がある」のだという。

登壇者らは、エンジニアがその能力を最大限発揮できる環境づくりはCTOの重要なミッションの1つだと口を揃えて言う。

では、具体的に各社はどのような環境づくりを行っているのだろうか。

多様なメンバーを3つの価値観でまとめるLINE

LINEはLINE社単体に所属するエンジニアだけでも国籍が28カ国にも及び、さらに海外にも拠点を抱えるなど多様性に富んだ組織だ。拠点独自の開発に従事しているメンバーもいれば、現地のオフィスと協力して各国向けのサービスに取り組むメンバーもいるため、場所を問わずグローバルに連携しながら開発を進めなければならない。

そうした多様なメンバーをまとめるために、LINEでは「Take Ownership」「Trust & Respect」「Be Open」という3つの価値観を共有しているという。その上で、信頼関係を醸成するために「実際に会って話す」ことも重要だと池邉氏は強調する。

「ただし、信頼することと馴れ合うことは違います。良いソフトウエアをつくるためにある程度健全なプレッシャーは必要です。信頼関係が結べていれば、忌憚なく意見交換もできますから」(池邉氏)

目指すは「技術のサイバーエージェント」

サイバーエージェントでは2006年より「技術のサイバーエージェントを創る」を宣言し、技術力を強化してきた。その方針をさらに加速するために長瀬氏が重視しているのが、「裁量」「自由と責任」「挑戦」「チームサイバーエージェント」という4つのエンジニア文化だという。

「エンジニア採用やシステムのコストなど、決裁権についてはかなりの部分を(エンジニアに)渡しています。ある程度組織が大きくなるとロスも出るので、いかにグループ全体で資産化し、失敗を繰り返さないかについて今向き合っているところです」(長瀬氏)

また、技術政策では「相対的に負けない報酬/待遇」「エンジニアの声を経営に活かす」「採用強化ブランディング」「挑戦できる環境」という4項目を柱に掲げ、さまざまな取り組みを行っている。

若手エンジニアを集めて(代表取締役社長の)藤田氏の直下に配置し、彼らの目線を組織開発に取り入れているのはその一例だ。若手からの率直な意見には耳の痛いものもあるが、それにもきちんと目を向けていくことでエンジニアの声を経営に活かす仕組みをつくっているという。

「当たり前を作り続ける」ためにDMM.comが重視すること

DMM.comは、ゲームや動画、英会話や3Dプリンターなど、40以上の多岐にわたるサービスを展開する。ある意味「何でもあり」の事業展開のなかで大事にしているのは、「当たり前を作り続けること」だと松本氏は言う。

これを実現するために重視するのが、誰もがすばやく挑戦し、失敗が許容される「AGILITY(敏捷的)」、多くの技術的チャレンジから日本で最もエンジニアを惹きつける組織であろうとする「ATTRACTIVE(魅力的)」、数値を共通言語としてエンジニア/ビジネスサイドに関係なく意見が評価/実施される「SCIENTIFIC(科学的)」、透明性が高く、誰もが能力を発揮できる「MOTIVATIVE(意欲的)」という4つの要素「DMM TECH VALUE」だ。

これらは松本氏がCTOに就任してまもなく設定したものであり、社内からも概ね好評が得られているという。また、松本氏も自身の活動を積極的に発信することで、「透明性を担保している」と説明した。