日本の老舗セレクトショップとしてさまざまな衣服や雑貨を販売する「SHIPS」。同ショップを運営するシップスでは、近年、組織編成の刷新やメディアの機能拡張といったデジタル部門の改革を進め、メディアECプラットフォームを構築することで、ネットとリアル店舗を交えたシームレスな顧客体験の提供にも挑戦している。
オンラインとオフラインが融合するOMO(Online Merges with Offline)時代の今、企業のデジタルマーケティング戦略はどうあるべきなのだろうか。2月27日に開催された「デジタルマーケティングを味方につける~戦略立案と実践方法~」の事例講演には、シップス デジタルマーケティング部 デジタルマーケティング課 課長 萩原千春氏が登壇。SHIPSのデジタル戦略のこれまでとこれからについて語った。
デジタルマーケティングに必要なのは「シームレスな組織」
自社ECサイト立ち上げやシステムリプレイス、コーポレートサイトとECサイトの統合推進など、自社ECサイト運営に長年携わってきた萩原氏。デジタル戦略を推進するにあたってまず行ったのは、組織改革だという。
「以前の組織体制は、EC、CRM、デジタルコンテンツといったように領域ごとにチームが細分化しており、決済権が不明瞭かつ連携性が低いことが課題でした。例えば、メールマガジンを配信しようと思っても、まずはECチームに打ち出し商品を募り、コンテンツチームにクリエイティブを作成してもらい、配信設定はCRMチームに依頼する……といった具合で、フローが煩雑になってしまっていたのです」(萩原氏)
そこでシップスは今からちょうど1年前に、これらのチームをデジタルマーケティング領域のチームとして1つの組織に統合。これにより、気軽に相談しづらかったり、別チームの案件を手伝いにくかったりといった社内の課題が解消され、連動性はもちろんのこと、迅速に施策を実行できる体制に生まれ変わった。萩原氏は「デジタルマーケティングを回すには、まずチーム体制からシームレス化することが大切だと考えた」と振り返る。
続いて取り組んだのがチームの目標設定だ。KGI(Key Goal Indicator)はシップス全社での売上となる。そこに対してデジタルマーケティングチームは、KPI(Key Performance Indicator)としてLTV(Life Time Value)とNPS(Net Promoter Score)の向上を設定した。チームが心がけているのは、想像だけで施策を実行しないこと。数値化しづらいファンづくりの指標はNPSに落とし込み、戦略を考えている。
「具体的には、LTV×NPSの高低によって6象限に顧客を分類して分析しています。例えば、LTVが高くNPSが低い顧客は『離反候補』となり、早急な対応が必要となります。一方、NPSが高くLTVが低い『プロモーター』に対しては、アップセル/クロスセルによってLTVを向上させることで、顧客価値の高い『ロイヤルカスタマー』にしていくための施策を打つことができます」(萩原氏)