「最新のワークスタイルに関する情報を提供することで、社会の可能性を広げていきたい」――そんなコンセプトを掲げて2017年にスタートした社団法人at Will Workが主催する「働き方を考えるカンファレンス 2020」が2月20日、都内にて開催された。同団体は設立当初から5年間限定で活動することを定めており、カンファレンスも5回で終了することが告知されている。

4回目の開催となる今回のテーマは「働くと経営課題」。働き方の選択肢が増えることで、どんな経営課題が生まれるのか。それをどう乗り越えていくのか。さまざまなゲストが登壇し、意見を交換した。

オープニングセッション「社員の個人事業主化の実践」には、2017年に希望する社員の個人事業主化をスタートし、2019年に発表して話題を呼んだタニタの代表取締役社長 谷田千里氏と、経済産業省 産業人材政策室室長 能村幸輝氏が登壇。ストリートスマート 代表取締役の松林大輔氏がモデレーターを務め、活発なやり取りが繰り広げられた。

(写真左から)ストリートスマート 代表取締役の松林大輔氏、タニタ 代表取締役社長 谷田千里氏、経済産業省 産業人材政策室室長 能村幸輝氏

社員の個人事業主化を支援 - その仕組みはなぜ生まれたか?

いわゆる「働き方改革」が社会への実装段階に進みつつあるなか、企業や社会にも変化が求められている。能村氏曰く、「政府全体として雇用形態を柔軟に選択できる社会を目指し、兼業・副業のルール整備の検討や、個人事業主・フリーランスといった雇用関係によらない働き方を推進するべく、関係省庁と連携して、統一した調査や検討を行っているところ」だという。

一方、各企業でもさまざまな取り組みが進められている。なかでも、健康計測機器メーカーのタニタは2017年、新しい働き方の選択肢として社員の個人事業主化を支援する仕組みである「日本活性化プロジェクト」を導入。昨年この取り組みについてまとめた書籍を発表し、話題を呼んだ。この仕組みの対象となるのは、個人事業主になることを希望するタニタ本社の社員である。希望者は、タニタを退職した上で改めて同社と業務委託契約を結び、それまで社員として取り組んでいた業務を個人事業主として受託することになる。

発案者でもある谷田氏曰く、この仕組みの構想が生まれたのは「(2008年に)自分自身が社長を継いだとき」だったという。

「社長として何ができれば合格点なのか考えました。幸い売上を上げることはできていますが、今後もうまくいくかはわかりません。もし会社が危機的状況になり、報酬が減れば、優秀な人材は去ってしまうでしょう。会社の業績が良いときだけでなく、悪いときでも、頑張った分の報酬を出すにはどうしたらよいだろうと考えるうちに、こちら(社員の個人事業主化)の方向に考えが進みました」(谷田氏)

これを受け、能村氏は「雇用のパラダイム自体が進化したのではないかと思う」と見解を示す。従来、日本企業は終身雇用制度によってある種の”囲い込み”を行っていたが、現代のビジネス環境において、そのやり方は通用しないというわけだ。

「タニタ食堂など、社内外の人で取り組んだプロジェクトがうまくいった例もあり、囲い込むのは損だと思った。社外との協業によって1つブレイクスルーができたのではないかと思う。この考えが、社員の個人事業主化につながった」と谷田氏は振り返る。

さらに同氏は過去、メンタルヘルスに問題を抱えた社員がいたことを明らかにした上で、「健康な心でいるためには、働かされるのではなく自らの夢や志の実現のために主体的に働くことが大事。(個人事業主化は)社員のやる気や主体性を引き出すための制度でもある」と持論を展開した。