2020年度から始まる大学入学共通テストへの英語民間試験導入の是非をめぐって波紋が広がり、2019年11月1日に導入延期が発表された。
その根本的な理由となったのが、民間試験を受験できる環境の不公平さだ。
受験料が2万円を超える高額な試験があったり、会場が都市部に集中していたりなど、経済的に厳しい家庭の高校生や地方に住む高校生にとって大きな不利益をもたらすという批判があった。
こうした大学入試における経済・地域格差を、世界で最も人気のある言語学習アプリ/サービス「Duolingo」が解決するかもしれない。
Duolingoは、すべての社会階級の人々に学習機会を提供したいという思いがきっかけとなり開発された。リリースから2年となる2014年にDuolingo CEOのルイス・フォン・アン氏を取材した際のユーザー数は3000万人だったが、今やユーザー数3億人超を誇る世界的なアプリにまで成長した(参考記事『天才ルイス・フォン・アン氏が語る、言語アプリ「Duolingo」の開発経緯』)。
Duolingo CEO ルイス・フォン・アン氏 |
現在では30カ国語以上の言語を対象に90の言語学習コース(日本語→英語、英語→日本語で2コース)を提供しており、日本語話者向け英語コースには約112万人のアクティブユーザーを抱えている。さらに11月には、日本語話者向けの中国語コースもリリースされた。
また、2014年の取材でアン氏が今後リリースする予定のサービスとして挙げていた語学検定試験も現在では本格的に提供されており、米国においてはすでにスタンフォード大学やイェール大学、UCLA、デューク大学などといった有名大学をはじめとする約700大学でTOEICやTOEFLと並ぶ英語検定試験として認定されているという。
Duolingoは、将来的に日本の大学入試英語を改革するツールとなりえるだろうか?
アン氏の来日に合わせて取材の機会を得た今回は、前回の取材からこれまでのDuolingoの軌跡をたどりながら、その可能性に迫っていきたい。
自宅で受けられる格安民間英語検定試験として米国700大学がDuolingoを導入
――改めてDuolingoの開発経緯を伺えますか。
私の出身は、グアテマラです。貧困層の多い地域もあり、お金や時間がないという理由で勉強できない人たちを目の当たりにしてきました。
こうした経済的・時間的に厳しい環境に置かれている方々に対して、外国語、特に英語を無料で勉強できる手段を提供したいという思いから、Duolingoの開発に至りました。
――今回来日された目的を教えてください。
理由は2つあります。
1つは、日本人向けの中国語コースを11月からスタートしたこと。Duolingoの今後の展開には、日本・韓国・中国を中心としたアジア地域が重要であると考えています。
もう1つの理由は、日本のカントリーマネージャーを採用するためです。
――日本のカントリーマネージャーにはどのような役割を求めていますか。
基本的には、ユーザーニーズのリサーチなど日本での成長に向けて何をすべきか考え、実行していただきたいです。
また日本では大学入学共通テストへの英語民間試験導入が検討されているところだと思いますが、Duolingoがそこにどう貢献できるのかについても考えていく必要があります。
――大学入試英語の話題は、日本ではとてもタイムリーです。2014年のインタビューでは、Duolingoの語学検定試験はまだアイデアの段階でしたよね。
当時はアイデア段階だったものがいくつかありましたが、今はすべて実現できていますね。特に英語検定試験は、スタンフォード大学をはじめとする700の大学でTOEICやTOEFULを置き換えるものとして認定していただいています。
――Duolingoの英語検定試験は、自宅で受けられるサービスということなのでしょうか?
そうです。
自宅のPCで受検できるということ、また、受検料の安さも我々のサービスのメリットです。
TOEFLやTOEICには1回受検するのに250ドルほど掛かりますが、Duolingoの試験は50ドルで受けることができます。
今、日本でも論争が起こっているところだと思いますが、大学入試に民間試験を採用するにあたっては、地域的・経済的な不公平が発生してしまいます。それを解決できるものとして、Duolingoの試験を導入していただければと思っています。
――自宅で試験を受けるとなると、カンニングのリスクが大きそうです。そこに対して何か工夫はされているのでしょうか?
試験中はPCのカメラを作動させ、人の目とAI分析によって受検者の様子を監視しています。
カンニングをしている人は、モニターとは違うところを見ていたり、不必要にキョロキョロしていたりするので、目の動きを分析したりすることで容易にカンニングを発見できるんです。
――米国の各大学で認定を取得するにあたり、工夫されたことはありますか。
基本的には大学の総務の方々と相談しながら進めてきましたが、当時の既存の英語民間試験では、大都市の人や経済的に裕福な人たちに有利なものになってしまうため、学生の多様性がなくなってしまうことを大学側も懸念しているようでした。そうした面においてDuolingoのメリットを感じていただけたことが、採用に至った大きな理由になっていると思っています。
リリースから4年間掛けてここまで来ることができましたが、最初の1校に認知・認定してもらうまでが大変でしたね。有名大学に導入が決まったら、あとは芋づる式で他の大学も検討してくれるようになりました。
――大学からの信頼を確保するためにどのような取り組みをされていますか。
数千人を被験者とした調査を行い、Duolingoの試験の妥当性を確認しています。具体的には、被験者にDuolingoとTOEFL両方の試験を受けてもらい、TOEFLとの互換性を科学的に証明しました。そこに対する大学の信頼は高いと思います。
――Duolingoの導入にあたって、大学側から何か要望はありましたか?
本当に試験の結果と同レベルの英語を喋れるのが、受検生の様子を確認したいという意見があったので、大学入試専用のサービスとして、ユーザーのスピーキングの様子を収めた90秒間の動画を大学に提供するようにしています。
試験終了後にスコアに合わせた質問が3つでるので、ユーザーはそのうちの1つに対して答える形でスピーキングを行います。この試験とシステムは当社が独自に作ったものです。
――日本でも展開できると良いですね。
はい、私たちもそう思っています。