ビジネスエンジニアリングは11月28日、製造業のITにフォーカスした年次カンファレンス「mcframe Day 2019」を開催した。
IoT(Internet of Things)やVR(仮想現実)/AR(拡張現実)といった技術が台頭する現在、製造業においてデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)は喫緊の課題となっている。基調講演では、ヤマハ発動機でDXを先導した同社フェローの平野浩介氏と、ビジネスエンジニアリングで専務取締役を務める羽田雅一氏が登壇。モノづくりに特化したWebメディア「MONOist」編集長の三島一孝氏を司会に迎え、DX時代に求められる基幹業務システム(以下、ERP)について語った。
(写真左から)MONOist編集長 三島一孝氏、ヤマハ発動機 フェロー 平野浩介氏、ビジネスエンジニアリング 専務取締役 羽田雅一氏 |
ERPの再構築から始まったヤマハ発動機のDX
冒頭、羽田氏は「DXの必要性が指摘される今、『なぜ基幹業務システムに着目するのか』と疑問に思う方もいるでしょう。しかし、DXを実現する上で、その土台となるERPは切り離せません」と切り出した。
平野氏も「ヤマハ発動機でのDXでは、ERPの再構築からやり直す必要がありました」と振り返りつつ、同社で実践したDXについて説明した。
ヤマハ発動機は主力製品である2輪車や電動アシスト自転車のほか、ボートや船外機といったマリンビークル、発電機、産業用機械やロボット、汎用エンジンなどを幅広く手掛けている。売上の9割は海外事業だ。
平野氏はヤマハ発動機を「典型的な日本のモノづくり企業」と表現する。国内外のグループ会社を134社擁する同社は、各社が独立した基幹システムを利用しており、本社だけでも130超の内製ソフトが稼働していたという。
「2D CADは内製でしたが、顧客情報はほとんど収集していませんでした。ヤマハ発動機が製品を販売する相手はディーラー(販売店)です。つまり、(実際に製品を利用している)顧客までリーチできていなかったのです」(平野氏)
こうした現状に危機感を抱いた平野氏が最初に行ったのは、経営層と目的意識をすり合わせることだ。「なぜDXに取り組む必要があるのか。2030年の会社のあるべき姿は何か。それを達成するにはどうすればよいか」を徹底的に話し合い、経営課題に対してIT(デジタル)がもたらすインパクトを共有した。具体的には「IT=コスト」と捉えている経営層に対し、リターンを示しながら「ITが投資である」ことを説明し、IT予算を取り付けたという。
「ヤマハ発動機のDXは、既存事業をデジタルで強化することです。これまで培った高品質なものづくりは、西海岸のスタートアップには絶対にまねできません(笑)。10年先を見据えた競争力のある経営システムを構築し、(バイクなどの)モノとデータを有機的に連携させ、新規ビジネスを創造することも視野に入れて(DXに)取り組んでいます」(平野氏)
会社の目指す方向と目的意識を共有した平野氏が次に手掛けたのが、データ統合だ。これまで分散していた個社のERPを順次統合し、グローバルな統合データベースの基盤整備を進めている。また、SNSやコネクテッドビークル、スマート工場などから収集したデジタルデータを活用すべく、デジタルデータ蓄積・分析基盤も構築中だ。そして、両基盤を組み合わせ、迅速な意志決定データ分析とフィードバックができる環境を構築しているという。