10月3日、ITRの年次イベント「IT Trend 2019」が新宿・京王プラザホテルにて開催された。今年は「テクノロジの転換期に求められる企業戦略」をテーマに掲げ、これからのデジタル/IT戦略を方向付けるテクノロジートレンドとともに、それを企業戦略に活かすための組織や推進体制のあり方などが提示された。
基調講演「2020年、そしてその先の未来を読む~最新テクノロジが変えるビジネスの最新動向~」に登壇した同社チーフ・アナリストのマーク・アインシュタイン氏は、国内外の最新テクノロジー動向やデジタルイノベーションの事例を紹介。2020年、そしてさらにその先の時代を見据えて、今、日本企業がとるべきアクションについて提言を行った。
高まるIoTへの関心とセキュリティの懸念
ITRは今年、400社を対象に実施した調査「ITR 2019 Enterprise Survey」を実施した。アインシュタイン氏はこの調査結果のなかから、IoTや5G、AIといった、DX(デジタルトランスフォーメーション)にとって特に重要な要素をピックアップして解説していった。
まず、予算に関しては、65%の企業が「より多くの予算をIoTに向けたい」と回答しており、大規模な投資を準備している傾向にあるという。
「IoTの投資分野と言えば、3年ほど前まではアプリケーション開発がメインだったが、今回の結果ではクラウドやデータ分析などアプリケーションのプラットフォームやIoTセキュリティにも注力していることがうかがえる」とアインシュタイン氏はコメントした。
また、IoTの活用において課題になる点として最も多く挙げられたのが「IoTに関する社内スキルの不足」であり、47%と約半数に達している。これに「社内制度や組織の壁によりイノベーションを進めにくい」と「市場のソリューションが十分に把握できていない」が共に33%で続いており、その次に「セキュリティの懸念」が31%となっている。
セキュリティに関しては、29%の企業がIoTに関する何らかのサイバー攻撃を受けたという回答もあり、IoTの推進に注力する各企業は早急に有効な対策を講じる必要に迫られていると言えるだろう。
DXを推し進める「7つのキーテクノロジー」
続いてアインシュタイン氏は、DXのテクノロジートレンドとして、次の7つのキーテクノロジーを挙げた。
- 5G
- AI
- ロボティクス
- xRサービス
- バイオメトリクス(生体認証)
- エッジコンピューティング
- デジタルツイン
講演後半では、これらのテクノロジーの活用事例と共に、それぞれの最新動向や今後の予測などについて解説が繰り広げられた。
5G:「広帯域」と「低遅延」のインパクト
「国内でも実質(イベント時点の)2週間前に5Gが始まりました。これは非常に大きなインパクトを与えるテクノロジーだと言えます」(アインシュタイン氏)
5Gの重要なキーワードとしては、「広帯域」と「低遅延」の2つが挙げられる。
「これにより、モバイル端末でもほぼ遅延がなくなるため、新しいエンタープライズアプリも実現できると期待されている。全てのビジネスが変わってくるほどのインパクトを秘めている」とアインシュタイン氏。
5Gに関する最近のホットトピックとして同氏は、5Gのプライベートネットワークを紹介した。これは、自社により独自の5Gネットワークを管理できる枠組みであり、セキュリティのレベルや内容に関しても自分たちでも決められるようになっている。欧州では既にVWなどで活用が進んでいるという。
「例えば、エネルギーや鉄道、自動車、航空などのインフラ系の企業では、自身でセキュリティをコントロールしたいというニーズが強くあります。これから来年にかけて大きなトピックになるに違いないでしょう。ただし、全ての企業が5Gのプライベートネットワークを築けるわけではありません。そこで5Gの『ネットワークスライシング』が注目を集めています。これは、期間限定で5Gネットワークを借りられる仕組みであり、DXで重要な機能になるのではないかと考えられます」(アインシュタイン氏)
5Gのユースケースとしてアインシュタイン氏は、航空機の整備検査に活用したJALの実証事業を紹介。ここで行われている8Kの精細な解像度の画像による解析は、5Gの広帯域の特性があってこそ可能な取り組みだと言える。
もう1つのユースケースとして、警備会社セコムによるバーチャル警備システムの実証事業が紹介された。同システムでは、画像監視や自動応答などが5Gネットワークを介して行われている。
「警備会社はどこも特に人手不足が深刻なので、5G活用にも積極的な傾向にあります」(アインシュタイン氏)