バブル絶頂期を超えてなお、毎年入場者数を伸ばし続けているJリーグと、買収時の大赤字から5年で黒字化を達成し、今や観戦チケットが入手困難なまでの状況となった横浜DeNAベイスターズ。この数年、観客動員数を伸ばし続ける両スポーツ団体は、それぞれどういったマーケティング方針の下、デジタル技術を活用しているのだろうか。

――9月25日に行われた第130回IT Search+スペシャルセミナーには、Jリーグデジタル プラットフォーム戦略部の部長、笹田賢吾氏と、横浜DeNAベイスターズ 事業本部 経営・IT戦略部の部長、林裕幸氏が登壇。「観客動員数を伸ばし続ける、プロスポーツ組織のデジタルマーケティング」と題し、パネルディスカッションが繰り広げられた。

ターゲットは「アクティブサラリーマン」

今年で開幕から27年目を迎えるJリーグ。集客は非常に好調で、今年は過去最高の入場者数となる見通しを示している。

「好調な理由の1つをデジタル戦略が担っているのではないかと考えています。JリーグIDを2年前に始めましたが、この2年間で各クラブと連携することで登録ID数は約4倍の150万件にまでなりました。そして、Jリーグ公式チケットサービス「Jリーグチケット」の売上が4年間で約5倍にまで伸びています。これも、JリーグIDで獲得したリードが売上に結び付いた結果です」(笹田氏)

Jリーグデジタル プラットフォーム戦略部 部長 笹田賢吾氏

一方の横浜DeNAベイスターズも業績は好調で、今年の来場者数は228万人強となる見通しとなっており、これは2011年の約2倍に相当する。

「来場者数の増加だけでなく、昨年はチケットが完売した回数が52回あり、NPB内でもトップクラスの客席稼働率となっています」(林氏)

横浜DeNAベイスターズ 事業本部 経営・IT戦略部 部長 林裕幸氏

マーケティング戦略を立案する上で、ターゲットとなる顧客の分析は不可欠だ。では、両者は顧客に関する現状把握をどのように行っているのだろうか。

林氏は、「以前は来場した顧客の属性が全くわからない状態だった」と振り返る。例えば年間席の購入があっても企業が買っていた場合、実際に来場しているのがどんな人なのかはわからない。また、コンビニエンスストアや当日窓口で購入されたチケットに関しても、属性は得られていなかった。

「1人でも多くの人に球場に足を運んでもらうためにも、まずは顧客データをしっかりと取りに行こうというところからスタートしました。そのために最初に手を着けたのが、自社のチケット直販サイト『ベイチケ』です」(林氏)

実際に来場している人の属性を把握/分析することで、どうすれば他の人も来てくれるかといった施策を打つことができるようになる。林氏らは、集客にあたり、20~30代でアクティブ、つまりフットワークが軽くて、休日にはアウトドアなどを楽しむような男性を「アクティブサラリーマン」としてターゲット設定し、その人に球場に足を運んでもらうためにはどうすればよいかを基準に取り組みを進めていった。

「失敗もしながら経験やノウハウを蓄積し、だんだんとお客さまが増えていきました」(林氏)

ここで笹田氏が、「『アクティブサラリーマン』をターゲットとすることをどうやって決めたのか」と質問。林氏曰く、2012年から顧客データを集め始め、ある程度顧客像が浮かび上がってきた2013年、自信を持って「アクティブサラリーマン」をターゲットに据えたのだという。

ただし、球場を単に「野球を観る場所」とするのではなく、「行くと何か楽しみが待っている場所」――簡単に言えば、居酒屋に行くような感覚で来てもらえるようにと工夫がなされた。横浜スタジアムは周辺に企業のオフィスが多いという点に着目し、平日の仕事帰りに”居酒屋・横浜スタジアム”を選択肢に入れてもらおうという狙いだ。

もちろん、子ども向けや女性向けの施策も考えられたが、これまで野球観戦に縁がなかった女性にいきなり「野球を見に来てください」と言って聞いてもらえるかというと難しい。そこで、日頃から来場している人たちに”誘ってもらう”のが有効な手立てではないかと考えたのである。つまり、アクティブサラリーマンは「ハブ」というわけだ。

そうなると、アクティブサラリーマンが女性や子どもを連れて来やすい環境をソフト/ハード両面でつくればよいことになる。

「一度球場に足を運んでさえもらえれば、ファンクラブの紹介などは、こちらでサポートすればいいだろうと考えました」