世界中でプラスチックごみが問題になっており、2016年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では、2050年までには海に生息する魚の総重量を超えるプラスチックが海に漂うようになるとの予測も発表されている。
多くの企業がレジ袋やストローを紙製のものに置き換えることを発表するなど使い捨てプラスチックへの規制の動きが世界的に広がるなか、日本発の新素材が注目されている。それが、「LIMEX」だ。LIMEXは、石灰石を主原料としており、紙・プラスチックの代替品として名刺や飲食店のメニュー表、食品容器など、さまざまなシーンで導入されている。
TBM コーポレート・コミュニケーション本部 ファンクリエイター 村上悠紀子氏 |
今回取材したのは、LIMEXの開発から製造、販売までを手がけるベンチャー企業 TBM。製品だけでなく企業理念も独特で、「MISSION」「VISION」「CREDO」「行動規範」からなる。同社のコーポレート・コミュニケーション本部 ファンクリエイター 村上悠紀子氏に、それらの言葉に込められた思いや社内へ浸透させる方法などについてお話を伺った。
1人で何百年も残る建物はつくれないが、100年続く会社ならつくれる
TBMの設立は2011年。現在のTBM 代表取締役 CEO 山﨑敦義氏が台湾製ストーンペーパーの輸入代理店業を営んでいたことがきっかけとなった。
当時、ストーンペーパーに対して大きな可能性を感じながらも、重く、高価であり、品質にばらつきがあることを課題に思っていた山﨑氏。台湾の業者に改善できないか掛け合ったものの、先方の中核事業ではなかったことから思い通りに進まず、「だったら自分でやってしまおう」とTBMを立ち上げ、紙への知見が豊富な元・日本製紙専務取締役の角祐一郎氏とともに、新素材の研究開発を進めていき、TBMを立ち上げる。そこから生まれたのがLIMEXだ。
山﨑氏がTBMの起業に至った原体験は、同氏がはじめて欧州を訪れた際、古くからある数々の建物に衝撃を受けたことだという。
数百年の月日を超えて現存するものがあることに感動した山崎氏は、1人の人間として何百年もの歴史のある建物や街をつくることは難しいが、会社であれば何百年と続くものをつくれるのではないか、100年後も残る技術や事業をつくり、時代の架け橋となる会社にしたい、と感じた。
その時の思いが、TBM(Times Bridge Managementの頭文字)という社名に込められている。
次世代への架け橋となる技術や事業をつくっていくために
TBMの企業理念は、こうした創業時の山﨑氏の考えを言語化したものだ。
<MISSION>
今までにない笑顔が、人と人とをつなぐ世界をつくる。<VISION>
過去を活かして未来を創る。100年後でも持続可能な循環型イノベーション。<CREDO>
- 橋を架ける人は、過去を知り未来を想い、新たな価値を創造する。
そのために今日すべきことを具体的に見極め、速やかに実行する。- 橋を架ける人は、すべての汗と涙の先に、世界と自分の幸せがある。
そのための知識を吸収し、自らを鍛え、目の前の仕事にあらゆる手を尽くす。- 橋を架ける人は、自分の能力より大きな仕事に全力でぶつかる。
自らの欠点を謙虚に見つめ、しかし生みの苦しみから決して逃げず成長してゆく。- 橋を架ける人は、理想と現実のバランス感覚を磨いている。
仕事相手の願い、自分や仲間たちの願い、そのどちらも両立させる。- 橋を架ける人は、人と人との間に絆をつくる。
つらい時こそ仲間を信じ、前向きに笑い、いつも感動と感謝を忘れない。<行動規範>
PDF参照(2017年1月13日制定)
https://tb-m.com/wp-content/uploads/2018/05/Code-of-Conduct-170113.pdf
現在のTBM社員は、これらの言葉をどう捉えているのだろうか。
村上氏は、MISSIONの「今までにない笑顔が、人と人とをつなぐ世界をつくる」に対して「『今までにない笑顔』とは、これまでになかった革新的なイノベーションがもたらすインパクトによって生まれると思っています。そしてそれによって人と人とがつながっていく社会があるのでは、と解釈しています」と話す。企業理念は、あえて人それぞれの解釈を持たせられるようなものになっているのだという。
また、CREDOにある「感謝、謙虚、感動」は、社内で特に頻繁に使われている言葉だ。村上氏によると「山﨑にメッセージを送ると、『いつも感謝してるで』とか『一緒に挑戦してくれてありがとう』といったような感謝の言葉をかけていただきます」とのことで、代表自身がいちばん意識して大切にしている様子がうかがえる。
こうした考えは社員に浸透しており、商談に際しては、目の前の案件に捕らわれるのではなく、一歩先を見据えて”TBMらしく”、イノベーションを生み出せるかどうかを意識している。社外のステークホルダーとの関係においても、話があればなんでも受け入れるような企業もあるが、TBMでは一緒に感動や幸せを生み出せるかどうかで考え、「場合によってはお断りすることもある」(村上氏)と明かす。
またVISIONの「100年後でも持続可能な循環型イノベーション」という言葉は、子どものいる中途社員からも高い共感を得られているという。
「子どもの未来のために、という思いを持っている人は多いです。自分の子どもの未来を自分たちでつくるということを実感しながら挑戦できる機会は多くはありません。世界を支えている素材というもので地球環境に貢献し、次世代に価値を残していけるということが、VISIONにあるキーワードから伝わってくるのではないでしょうか」(村上氏)
地球環境への貢献意識が組織づくりにもつながっている
企業理念を社内に浸透させるため、TBMでは「CREDO会議」という制度を導入している。同会議では、山﨑氏と同じ熱量で組織を語ることができる”エバンジェリスト”を育てていくことを目的の一つとして、各事業本部のマネージャークラスの人間が週に1度集まり、組織のあり方や人材開発、企業理念の浸透に関して議論しているという。
2018年夏に実施した「TBM CAMP」では、東京本社のメンバーに加えて、宮城県にある工場のメンバーも一部集まり、TBMが目指す組織について語り合い、組織の創業日としました。
TBMの事業の根幹にあるのは、サステナビリティだ。
LIMEXは主原料の石灰石とマイノリティ成分として含まれる石油由来樹脂から構成されているが、TBMはこのうち石油由来樹脂を100%バイオ由来かつ生分解性の素材に置きかえた生分解性LIMEXの実現を目指す。
2018年12月にはPLA(ポリ乳酸)の改質剤を手掛けるバイオワークスを子会社化し、両社で生分解性LIMEXを用いた包装材や真空成形品の開発を進めているところだ。
「私たちの仕事が地球環境の持続可能性につながっているという責任と義務は、組織づくりにも反映されていると思います。組織の健康状態を定量的に測るパルスサーベイの結果では、企業理念に共感する社員が多くなってきていることがわかっています。まず社内のメンバーが会社の熱狂的なファンになってくれることが、社外のファンづくりを加速してくれると考えています。」(村上氏)
LIMEXを武器にサステナブルな地球環境の実現に貢献することで時代の架け橋となるべく、TBMの挑戦は続く。