グローバル化が進み、ビジネスを取り巻く環境が目まぐるしく変化する昨今、たとえ大企業であっても安定の継続が約束されるわけではない。また従来、日本企業の正社員雇用においては慣行だった終身雇用も、もはや期待できないことは言うまでもないだろう。
従業員一人一人が、所属にとらわれないかたちで自らのキャリアやスキルについて考える必要に迫られる一方、先見性を持つ企業は既にタレントマネジメントの重要さに着目し、ツールや制度の導入を進めている。
では今、タレントマネジメントのトレンドはどこにあるのだろうか。
AIが台頭し、「モノ」ではなく「コト」の消費が進むなかで「市場はシフトし、今は『タレントエクスペリエンス』が中心になっている」と語るのは、タレントマネジメントソリューション「コーナーストーン」を提供する米Cornerstone OnDemandの社長兼CEO アダム・ミラー氏だ。
同社は1999年の創業以来、早期からSaaSベースで人材の育成/教育プラットフォームを提供してきた。昨年末、マイクロラーニングコンテンツプロバイダーの米Grovo Learning(以下、Grovo)を買収したニュースは記憶に新しい。
タレントマネジメントはこの先、どこに向かっていくのか。その流れの中でコーナーストーンは何を提供するのか。7月10日、都内にて開催された「CONVERGE TOKYO 2019」に際し、来日したミラー氏にお話を伺った。
日本企業こそが取り組むべき「ラーニング」
――今、世界のHR Tech市場ではどういった分野に注目が集まっているのでしょうか。
欧米で言えば、今はタレントエクスペリエンスが中心になっています。
人材管理は、会社側が従業員に向けて行うものですが、タレントエクスペリエンスでは従業員が自分たちで自分たちをある程度管理していくことになります。
例えば、会社に入った初日や、本格的に業務が始まるとき、管理職になるときなど、転機を迎えるようなほぼ全てのタイミングでは、ラーニング(学習)が必要です。適切なタイミングで適切な学習を実施するには、マイクロラーニング(1本あたり数分で見られる動画コンテンツを利用した学習)も有効になります。また、自分のスキルや強みをはっきりさせて、向いている仕事を把握したりすることも必要でしょう。
また、アジャイル開発のように短期間でゴールを設定してはパフォーマンスレビューを行い、次のゴールを設定するといったことも行われています。これはマーケティング部門や営業部門などでも実施されているもので、振り返ってうまくできなかったことがあれば、マネジャーがマッチするトレーニングを提案するわけです。
欧米の場合、そうした人材教育をきちんとやらないと従業員が辞めてしまうという恐怖感があります。欧米においては、人が辞めることに対する危機感が非常に強いのです。特に、高いスキルがある人は多くの企業から引く手数多なので、辞めてしまう可能性も高くなりますから。
――日本の場合はいかがでしょう?
日本では、「人材教育に力を入れないと人が辞めてしまう」という問題はありませんよね。従業員が(欧米ほど)会社を辞めないからです。でもこれは別の問題につながり得ます。
同じ会社に長く居続ける従業員が、自分たちでスキルを開発しなければ、社内には今の時代に見合ったスキルがない従業員ばかりになってしまいます。これは多分最悪の事態でしょう。
この問題を解消するには、会社が変わろうとしているのと同じペースで、従業員が常に自分のスキルをアップデートし続けないといけません。日本では今、(生き残っていくために)どこの企業も変わろうとしています。しかし従業員が変わらなければ、会社は変われないのです。
従業員が辞めない風潮にあり、新しい人材が入らないのであれば、会社の中の人が変わるしかありません。だとすると、欧米よりもむしろ日本企業のほうが、従業員の継続的なトレーニングが必要でしょう。
社内にいる人材のスキルは、もう何年も前のものかもしれません。今、会社が必要としているスキルを従業員に身に付けてもらう必要があるのです。