第1回にて、企業と個人のコミュニケーションはチャットボットが中心になる、と述べました。スマートフォンやSNSの普及、テクノロジーの発展により、日常的にチャットボットが使われる世界はすぐそこまで来ています。
一方で、発展途上のサービスであるため、現状のAIチャットボットができることに対して誤認識している方が少なくありません。
第2回では、AIチャットボットがどのような仕組みで成り立っているのかをわかりやすく説明したうえで、導入や運用フェーズでどのような作業が必要になるのかを具体的にご紹介します。
チャットボットが回答する仕組みとは
AIチャットボットが自動で応答できる仕組みをご存知でしょうか?
多くの方が「AIが自動的に言葉を覚えて返答してくれる」と誤解していますが、AIは自動で学習することはできません。
なぜなら、AIチャットボットは「登録されたFAQデータから、ユーザーが求める回答を“AIが選択”して返答するシステム」であるからです。
では、“AIが選択”とはどういうことなのでしょうか。以下、具体的にご説明します。
ユーザーが発話をすると、AIは発話内容と登録してある全FAQの文章がどの程度似ているかという「類似度」を計算して、そのスコアが高い文章を返答しています。
例えば、ユーザーがチャットボットに対して、「パスワードが分からない」と発話したと仮定します。
その時、AIは入力された「パスワードが分からない」と、登録されている全FAQの文章がどの程度似ているかという「類似度」を計算します。
その結果、AIは類似度が一番高い「パスワードを忘れた」という質問に紐づいた「パスワードを忘れた場合は~」という回答を返します。
このように、あくまでAIは類似度を計算し、登録されたデータの中から回答を選択しているだけなので、FAQが正しく登録されていなければ、正しい返答を返すことはできないのです。
したがって、回答精度の向上には質の高いFAQの追加が欠かせません。そして、このFAQの登録作業は人の手で行う必要があるため、導入初期は労力がかかると言われています。
AIチャットボットを作るには
続いて、実際にどのようにAIチャットボットを作っていくのかをご覧いただきましょう。
AIチャットボット導入は以下のフローで行います。
<AIチャットボット導入フロー>
(1) 保有している問合せデータの整理
(2) FAQの作成
(3) 同義文の追加
(1) 保有している問合せデータの整理
AIチャットボットは、「登録されたFAQのデータから、ユーザーが求める回答をAIが選択して返答するシステム」なので、AIが回答しやすいようにFAQを作成する必要があります。
そのために、FAQ作成前の準備として最初に行うべき作業は、「保有している問合せデータの整理」です。
企業における問合せ対応の備えとしては、最初からFAQとして整備されている場合もあれば、FAQという形ではないカスタマーサポートマニュアルしか保有していない場合、はたまたFAQやマニュアルは全くなく都度担当者が顧客対応している場合など、現場によってさまざまです。
すでにFAQが整備されている場合は、比較的に労力をかけずにチャットボットを導入することができますが、整備されていない場合はデータの整理から始まるので、導入の準備からかなりの労力がかかります。
今までメールや電話などで受け付けた問合せデータを収集して、問合せをリストアップし内容ごとにグループ分けする必要があるからです。
この問合せデータの整理は、チャットボットベンダーによっては、自然言語処理の技術で問合せデータを自動的にグループ分けする機能を持っていたりもするので、データが整備されていない場合は外部に委託してもよいでしょう。
(2) FAQの作成
データの整理が終わったら、次は「FAQの作成」です。
何度も申し上げますが、AIチャットボットは、「登録されたFAQのデータから、ユーザーが求める回答をAIが選択して返答するシステム」なので、いかに網羅性の高いFAQを作成できるかが回答精度を左右するポイントです。
<FAQ作成のポイント>
- 問合せデータが網羅されているか
- 分岐は分かりやすく作られているか
当然ですが、問合せ総量が多いサービスや複雑なサービスであればあるほど、問合せデータを網羅し、かつ分かりやすい分岐のFAQを作ることは難しくなります。
担当者は、バラバラに存在する問合せデータを分類し、それらの情報が並列なのか、階層分けされるのか、それとも1つにまとめられる情報なのか、などを正しく判断し、FAQを作成していきます。 この作業は、高い情報処理能力が求められる作業と言っても過言ではありません。
チャットボットベンダーの中には、FAQ作成を代行する企業もありますので、ノウハウやリソースがない企業は、この作業をアウトソーシングする、という選択もあります。
(3) 同義文の追加
FAQの作成が終わったら、最後に「同義文を追加」する作業です。
AIは文章間の類似度をさまざまな要素から計算するため、多少の言い回しの違いがあっても同じ意味の文章だと判定することができますが、極端に言い回しが異なる場合には類似の文章だと判定することができません。
したがって、回答精度を上げるためには、作成したFAQと同じ意味合いであるけれど、違う言い回しの言葉を人の手で登録していく作業が必要です。
例えば、「パスワードが分かりませんでした」という問いと「PASSを忘れた」という問いは、本来同じ意味として認識してほしい言葉ですが、AIエンジンのモデルや学習させているデータによっては同じ意味として認識できない場合があります。
そのため、これらを同義文であると登録する必要があります。
ここで気をつけなければならないのが、闇雲に同義文を追加してしまうと、逆に回答精度が落ちてしまうということです。
同義文が多くなると、AIが似ていると判断する文章の候補が多くなりすぎてしまい、正しい回答を選択できなくなってしまいます。これを防ぐために、網羅性が高く、かつ過不足ないインプットを行うことが重要なのです。
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ここからは、導入した後の運用方法について説明します。
AIチャットボットは導入して終わりではなく、「運用」が非常に大事です。
なぜなら、AIチャットボットはFAQに登録していない質問に対して返答することはできないので、リリースした後にAIが応えられなかったユーザーの問合せは、FAQに新しく追加しなければならないからです。
では、実際に「運用」にどのような作業があるかを説明します。
<AIチャットボット運用の作業>
(1) 問合せデータの分析
(2) FAQの追加・修正
(1) 問合せデータの分析
まずは、ユーザーからAIチャットボットに発話された問合せデータの分析を行います。自由記述で入力されたユーザーの発話の中で、応えられなかった問合せを収集して、内容ごとにグループ分けする作業です。
ここで分析作業を楽に行えるかのポイントになるのが、「問合せ情報を自動的にクラスタリング※1する機能があるか」ということです。
問合せ総量が少ない場合は、自由記述で入力された問合せを人力で分類し、それに対しての回答を作成することもできるでしょう。
しかし、問合せ総量が多くなった場合、人力で問合せをグループ分けすることは、労力もかかり、ミスも多くなってきます。
その際に、自然言語処理の技術を使って問合せのテキストをクラスタリングしてくれる機能があれば、分析作業を楽に行うことが可能です。
問合せ総量が多い企業では間違いなく必要となる機能ですので、導入時にクラスタリング機能があるか確認した方がよいでしょう。
(2) FAQの追加・修正
次は、「FAQの追加・修正作業」を行います。
回答精度向上のために、回答できなかったデータを追加・修正する作業が必要です。ただし、FAQの追加は慎重に行わなければなりません。
電話やメールに比べ、チャットへの問合せは気軽にできるため、サービスに関係ない問合せがあることもあります。このような発話は回答できなかったとしても、もちろんFAQに追加する必要はありません。 また、サービスに関係ある質問でも、同義文の追加と同様、闇雲に追加してしまうと回答精度が落ちてしまう恐れがあります。
この作業のポイントは、「データを追加することが回答精度の向上に繋がるのか」について人が判断を行い、適切な内容だけを追加・修正するということです。
加えて、AIは入力された文章と、登録されているFAQ全データとの類似度を比較して返答しているので、新しくFAQを追加することで、既存FAQの類似度の計算に影響が出ることも考慮しなければなりません。
「新しいFAQを追加することで、FAQ全体としての網羅性は上がるが、既存FAQへの影響が小さい文章」が理想的と言えるでしょう。
このように、問合せデータの分析、FAQの追加、修正を行うことで、徐々にAIチャットボットは回答精度が上がっていきます。
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今回は、AIチャットボット作成の具体的な作業フローに基づいて、その仕組みをご紹介しました。
24時間365日お客様対応をしてくれるAIチャットボットはカスタマーサポートの強い味方ですが、その導入と運用にはノウハウと工数が必要です。
今回ご説明したAIチャットボット 導入や運用の作業については、サポートしたり、代行したりするツールもあります。費やせるリソースや活用の目的を見極めてサービスを検討することが、プロジェクトの成否を決めるポイントと言えます。
著者紹介
嶋田 直人 (SHIMADA Naoto)
- サイバーエージェント アドテク本部 AI Messengerカンパニー
2015年3月九州大学経済学部卒業。2018年にサイバーエージェント入社後、同年7月より現職。AIチャットボットサービス「AI Messenger」のセールスとして従事している。