SAS Institute Japanは6月11日、年次カンファレンス「SAS FORUM JAPAN 2019」を都内にて開催した。「デジタル変革に魂を! Analytics in Action」をテーマに掲げた同カンファレンスでは、「デジタルトランスフォーメーション」「AI時代のデータ管理」「Enterprise Open Analytics Platform」「人材育成/組織戦略」の4つのカテゴリーが用意され、SASの最新技術や国内外のユーザー事例を紹介するセッションが多数実施された。

そのなかから本稿では、三菱重工航空エンジン 経営管理部 IT戦略グループ グループ長 吉野一広氏が登壇した講演「Smart Factory~データドリブンな業務運用で「魅せる工場」への変革を実現~」の模様をお届けする。

Smart Factory実現の鍵は「見える化」と「定量化」

三菱重工航空エンジンは、航空機用エンジンの部品開発や組み立て、整備/修理事業などを展開し、三菱重工業グループのパワードメイン事業の一翼を担う企業だ。

登壇した吉野氏によれば、航空機エンジン市場は右肩上がりに年間5%ほどの成長を見せており、今後20年で市場規模は倍になることが予測される「恵まれた市場」だという。航空機需要の増加に伴い、新規機種の量産が本格化。事業が急拡大するなかで、パートナーとの生産連携を高度化し、差別化を図る必要に迫られている。

こうした状況に、IoTやAIといったテクノロジーで対応しようというのが、Smart Factory(スマートファクトリー)構想の発端だ。

「当社にとって、Smart Factory化とは”魅せる工場”への変革であり、『あらゆる変化に追従できる人と仕組みづくり』だと定義しました」(吉野氏)

三菱重工航空エンジン 経営管理部 IT戦略グループ グループ長 吉野一広氏

これを実現する上で重要なのが、「見える化」と「定量評価」である。業績をチェックし、改善に向けた施策を打つのは当然の行動であり、いずれの企業でも実施していることだろう。チェックから改善策を実施するまでのサイクルは短いに越したことはないが、多くの場合、先月の数字を基に会議を行い、来月のアクションを決める……というペースになっているのが実情だ。

「会社の今の状態をすぐにわかるようにしようというのが見える化です。また、定量評価するには基準となるしきい値が必要です。業績がしきい値よりも悪ければ、すぐに打ち手を考えられるので、変化に即応できる体質になれると考えました」

そこでSmart化の推進にあたっては、「データの蓄積」「見える化」「予測」「自律化」の4つにステップを分けた。だが、その前段階として素地を整える必要があったという。

「当社はもともと紙が大好きで、さまざまな記録や手順を紙でまとめていたんですね。しかし、紙の記録は二次利用ができません。そこで、まずはデータをデジタル化するところから始めました。データが貯まらないと何もできないので、これが最低限のスタートラインになります」

担当者のメリットも考慮した「データの蓄積」

Smart化プロジェクトは、対象を中量産ラインと個別生産ラインに絞り、スモールスタートで開始。当時、個品管理では加工着手時と取り外し完了時にバーコードを読み取ることで進捗管理をしていたが、実際の作業プロセスにはそれら以外にもさまざまな工程がある。そこでより詳細な進捗状況を把握できるようにするため、作業を細かく記録することにした。

ただし、確認作業が増えるだけでは作業者の負担になるので、+αの要素として、「自動ポカ避け」の機能やドキュメントの一括確認機能などを付加したライン管理システムを構築したという。

同システムでは、各工程の完了前に前回の問題点が表示され、その部分を確認/チェックしないと次の工程には進めない仕組みになっている。紙ベースで管理していた頃は、過去に起きた問題の記憶を基にファイルで確認していたが、システムに組み込むことでチェックの抜け/漏れを防止できるようにしたわけだ。吉野氏は、これを「『記憶』を『記録』に変える」と表現する。

「以前はファイルを片手にチェックしていましたが、(システムは)タッチパネルの操作なので紙の書類もいらず、記録もつけられますし、確認しないと次に進めないので忘れることはありません。作業者にもメリットがあるかたちで詳細データを収集できるようになっています」

そのほか、初めて担当する部品には初心者マークのアイコンを表示し、一定回数は指導者と一緒に作業するルールを作ったり、変更があった部品や、久しぶりに担当する部品などにもそれぞれに用意されたアイコンで注意を促したりと、使いやすいシステムにすることで、データの蓄積を進めていった。

システムのデモ画面。各プロセスをクリックして作業を進めていく