ガートナー ジャパンは4月23日~25日、年次カンファレンス「ITインフラストラクチャ、オペレーション&クラウド戦略コンファレンス 2019」を都内にて開催した。同カンファレンスにおいて多数行われたセッションのなかから、本稿では、レッドハットの運用自動化ツール「Red Hat Ansible Automaiton(以下、Ansible)」を活用したソフトバンクにおける取り組みが紹介された講演「ソフトバンクの取り組みから紐解くIT自動化ベストプラクティス」の模様をレポートする。

ソフトバンクが掲げた「Half and Twice戦略」

ビジネスにスピードと柔軟性をもたらす上で、ITシステムが果たす役割は年々大きくなっている。特に近年は、「デジタル変革の取り組みを支えるIT基盤をいかにしてビジネス部門に提供するか」が大きなトピックスとなっている。そんな中、レッドハットの運用自動化ツール「Ansible」を活用して、システム運用の効率化とスピード化に取り組んでいるのがソフトバンクだ。

最初に登壇したレッドハットの製品統括・事業戦略 担当本部長 岡下浩明氏はまず、Ansibleの特徴をこう説明した。

「Ansibleは属人化やサイロを排除し、プロセス、監視、通知、継続的改善を進めるための自動化プラットフォームです。自動化の手順書がシンプルで、2000以上のシステムを対象にしたパワフルな管理が可能です。自動化対象に特別な設定をせず、エージェントレスで管理できます」

レッドハット 製品統括・事業戦略 担当本部長 岡下浩明氏

岡下氏によると、IT自動化の課題は大きく3つある。1つ目は「IT自動化のイメージが湧かないこと」だ。具体的には「完成したプロセスのどこを自動化すればいいか」「何が自動化の対象になるのか」「自動化した後の世界観が見えない」といった悩みを抱えやすいという。

2つ目は「戦略なき自動化が蔓延していること」。ツールがバラバラだったり、スキルセットの違いによって自動化にレベル差が出たり、再利用できないといったことが起こる。

3つ目は「自動化の抵抗勢力がいる」ことで、現場の担当者が自分の仕事がなくなると考えて非協力的だったり、ツールには任せられないと抵抗したりするために、取り組みが進まなくなるケースだ。

「レッドハットではこうした課題を解決するための支援を行っています。イメージが湧かないことについては、『ディスカバリーセッション』という課題整理とロードマップ作成の支援があります。また、自動化の戦略については、単に手順を置き換えるだけでなく、サービス化(機能化)やAPI自動連携を推進し、自動化の効果を最大化します。抵抗勢力についても、発想の転換とトップダウンのサポートを行い、マネジメントが強い意志で部下のチャレンジを促す支援を行います」(岡下氏)

実際にこうした自動化のさまざまな課題を解決し、成果を挙げているのがソフトバンクである。

ソフトバンクは、国内約2400店のソフトバンクショップ、約1000店のY!Mobileショップ、オンプレの3つのデータセンターのネットワークを運用しており、システム数は800、ネットワーク機器は2万台/200機種、物理サーバは1万台、無線APは8000台という大規模な環境となっている。

これらITインフラの設計/構築を担うのがITインフラ統括部IT基盤部だ。同部 ネットワーク課 課長の前田高尚氏は同社が直面した課題について「大規模、多機種、多システムで、古い設備も多くあります。M&Aと共に業務はもちろん、インフラやシステムの数も増えていき、次第に更改、統合することが難しくなっていきました。そうしたなかで進められたのが、『Half and Twice戦略』でした」と話す。

ソフトバンク ITインフラ統括部IT基盤部 ネットワーク課 課長 前田高尚氏

Half and Twice戦略とは、人件費以外のコストを半減(Half)させる一方、最新のICTを活用して生産性を倍(Twice)にする取り組みだ。半分のコストで生産性を2倍にするということは、社員1人がコスト当たりの生産性を4倍にする必要があるということだ。

「そこで実感したのは、業務の自動化は必須だということです。エンジニアのスキル向上とマインドチェンジが必要でした。IT基盤部ネットワーク課は、ネットワークやLinuxのスキルを持つネットワークエンジニアが中心だったため、新たに自動化の要件定義やデータベース、プログラミングの知識も求められました。また、今持っている知識のなかで改善するのではなく、ゼロベースで改革に取り組むマインドが必要になります」(前田氏)