企業と個人のコミュニケーションは、チャットボット中心に変わる!?

Facebookの創設者兼CEOであるマーク・ザッカーバーグ氏は、2016年4月に開催されたカンファレンスにて、「友人との会話のように、企業と個人がコミュニケーションを取ることができるようになる」とこれからチャットボットの時代が到来すると宣言し、Facebookメッセンジャーアプリ上でのチャットボットサービスをリリースしました。

Apple社のiPhoneの登場によりスマートフォン市場が一気に拡大し、あらゆる産業の常識が変化したように、この発表を皮切りに全世界でチャットボットサービスが急速に普及し、まさに今チャットボットは企業と個人のコミュニケーションの在り方を大きく変えようとしております。

矢野経済研究所の調査によると、2017年は11億円であった国内のチャットボット市場は、2022年には132億円と今後5年で10倍以上の規模に拡大すると予想されており、近い将来、チャットボットは多くの人にとってより身近なツールになるでしょう。

国内の対話型AIシステム市場規模推移と予測(矢野経済研究所調べ)

国内におけるチャットボット提供企業も増加しており、今では100社に迫っています。特に、少子化に伴い労働人口がものすごいスピードで減少することが予想されている日本では、これまでと同じような業務体系では確実に社会全体が人手不足に陥ることでしょう。

このように、人に代わってチャットボットがお客様対応をする未来はすぐそこまで来ています。

この連載では、今後あらゆる企業で必要となってくるチャットボットを使いこなすにはどうすればよいのかを分かりやすくお伝えしていきたいと思います。

さまざまな場面で活躍するチャットボット

チャットボットとは、その名の通り「チャット」と「ロボット」を組み合わせてできた言葉であり、テキストや音声を通して人とコミュニケーションを行うプログラムです。SiriやAlexaなどのような、ユーザーの問いかけに回答するサービスが挙げられます。

昨今開発されたと思われがちなチャットボットですが、その歴史は意外に古く1966年に世界初のチャットボット「ELIZA」がマサチューセッツ工科大学により開発されました。「ELIZA」は心療内科のカウンセリングを行うプログラムで、ユーザーの入力に対してデータベースの中から適切と思われる返答をするというものでしたが、当時の技術では問いかけに対して正解ではなく「それらしい」返答を行うのが限界でした。

Emacsに移植されたELIZA。質問を投げると回答を返す。画面の赤下線はユーザーの入力、青下線はコンピューターの返答

そこから長い年月をかけてチャットボットの技術は着実に進歩を重ねてきましたが、AI技術の発展とチャットツールの急速な普及による会話データの蓄積により、近年チャットボットの精度が飛躍的に向上し、今では多くの企業が利用するサービスへと発展しました。

問い合わせ対応や、商品のレコメンド、雑談など、さまざまな用途で使われているチャットボットですが、みなさんもWebページやLINE公式アカウントなどで使用したことがあるかもしれません。

最近では、ローソンのLINE公式アカウントのキャラクター「あきこちゃん」が話題になりました。「あきこちゃん」はユーザーの問い合わせへの回答や、おすすめ商品の紹介だけではなく、オセロや、しりとりといったゲームや雑談を楽しめるアカウントであり、ユーザーを楽しませる機能を多く備えております。友達登録者数は2500万人以上、毎日10万人の訪問者を集める人気のアカウントです。

スタンプやクーポンを入手したらブロックされることも多いLINEの公式アカウントですが、「あきこちゃん」の効果により、他企業の公式アカウントに比べて、1割以上ブロック率が低いという実績を出しています。

他にも実用的なチャットボットのサービスとして、ヤマト運輸が提供しているLINEアカウントでの荷物受取日時変更サービスが挙げられます。荷物の受け取り時間の指定・変更をチャットボットが全て自動で行ってくれる非常に便利なサービスです。現在、アカウントの友達登録数は2000万人を超えており、ユーザーの利便性向上および企業の業務効率化に貢献している良いケースであると言えます。

ヤマト運輸のLINEアカウントでは、荷物受取日時の変更などが可能

このほかにもチャットボットを利用する企業や自治体は日々増え続けており、さまざまな用途でのチャットボットの活用方法が話題となっています。

チャットボット導入において陥る”罠”

このように急速に拡大しているチャットボット市場ですが、期待していた効果が得られないなどの理由からチャットボットの活用を辞めてしまうケースも増えています。 その原因の多くは、チャットボットの仕組みを正しく理解しておらず、過度な期待を寄せてしまったからに他なりません。

日本における人工知能(AI)ブームの火付け役である東京大学特任准教授の松尾豊氏も、著書「人工知能は人間を超えるか」の中で、「いまの人工知能は、実力よりも期待感のほうがはるかに大きくなっている」と述べています。

例えば、学習していない言葉が発言されても自動で回答を生成するなど、多くの人は”AIは自動で学習し自然に賢くなっていくもの”というイメージを持っているでしょう。しかし、AIはイメージのような「自分で考えて、新しく言葉を生み出す」ことはできません。この世の中の認識と実際にできることのズレが、チャットボットを上手く活用できない原因なのです。

チャットボットを上手く活用するには、AIが学習する”仕組み”を正しく理解することが重要です。

チャットボットが賢くなっていくプロセスとは?

では、どのようにチャットボットは入力された言葉に対して回答しているのでしょうか? 実はチャットボットは、事前に作成した「Q&A」をAIに学習させており、そのデータをもとに回答しています。

回答率の向上には、必ずAIの学習作業が必要になります。このように自動で賢くなっているように見える裏側には、人の手による地道な回答データの集計作業と回答作成作業があるのです。

例えば、下記のQ&Aが学習されているとします。

Q : パスワードを忘れてしまった。
A : パスワードを忘れてしまった場合は、以下よりメールを送り、新しくパスワードを発行してください。

「パスワードを忘れてしまった」と学習した質問文と完全に一致する場合や、「パスワードが分からない」や「パスワードを新しく発行したい」など一部が一致するキーワードが入力されていればAIは正しく回答することが可能です。

しかし、ユーザーは必ずしも”パスワード”というキーワードを入れて質問するわけではありません。「ページに入れない」や「どうやってログインすればいいの?」のように違う表現で質問された場合、同一の内容であると認識し回答することは難しいです。このように回答できなかった質問を学習させていかなければ、チャットボットの回答精度は全く向上せず、いつまでも回答できないままなのです。

ユーザーが思い浮かべる質問の表現はさまざま。対応できるよう学習させていく必要がある

より具体的なAIの学習プロセスは次回以降に説明します。

チャットボットのこれから

ネットスケープの創業者であり、数々のサービスを世の中に生み出したマーク・アンドリーセン氏は、「あと少しでタブレットやスマートフォンが世界中のすべての人に行き渡るだろう。すべての経営者は次の5年でそれをどう活用するか、どこに投資するかを真剣に考えなければならない」と述べています。

音楽、映画、出版、小売といったあらゆるサービスがインターネットやスマートフォンの普及により大きく変化しています。

そのなかでも、時代に取り残されずに今後企業として生き残っていくためには、正しくテクノロジーを理解して、一過性のブームに惑わされず、テクノロジーと上手に付き合っていくことが大事となるでしょう。

連載を通じて、今後多くの企業で必要となるであろうチャットボットについて、分かりやすく情報をお届けしていければと思います。

著者紹介

嶋田 直人 (SHIMADA Naoto)
- サイバーエージェント アドテク本部 AI Messengerカンパニー

2015年3月九州大学経済学部卒業。2018年にサイバーエージェント入社後、同年7月より現職。AIチャットボットサービス「AI Messenger」のセールスとして従事している。