国内売上シェアNo.1のWeb会議ツールを提供するブイキューブ。日本のインターネット黎明期だった1998年の創業当時から、2013年の東証マザーズ上場、2015年の同一部への市場変更と一歩ずつ成長を続けてきた。

そして、2018年10月に創業20周年を迎えるにあたり、新たに「Evenな社会の実現 ~すべての人が平等に機会を得られる社会の実現~」というミッション、「To be “The One” ~社会にとってかけがえのない存在であるために~」というバリューを策定した。

<ミッション>
Evenな社会の実現
~すべての人が平等に機会を得られる社会の実現~

<バリュー>
To be “The One”
~社会にとってかけがえのない存在であるために~

今回は、これらの言葉がどのように生まれてきたのか、ミッション・バリュー策定プロジェクトを担当したブイキューブ 常務取締役 CRO(Chief Revenue Officer) 水谷潤氏、同管理本部 人事グループ グループマネージャー 今村亮氏に話を聞いた。

ブイキューブ 管理本部 人事グループ グループマネージャー 今村亮氏(左)と、常務取締役 CRO(Chief Revenue Officer) 水谷潤氏(右)

事業拡大戦略により社内メンバーの意識の差が浮き彫りに

ブイキューブは、慶應義塾大学の学生を中心に設立された大学発ベンチャーで、Webサイト制作やシステム受託開発事業からスタートした企業だ。

幾度かの事業の転換・集中を経て、Web会議サービスで市場シェアを席巻し上場に至った後は、国内外で積極的なM&Aを中心とする事業拡大戦略を展開。パイオニアソリューションズ(後のパイオニアVC、後にブイキューブに吸収合併)や、シンガポール最大の教育プラットフォーム提供企業 Wizlearn Technologiesなどの買収を実施してきた。

水谷氏によると、こうして企業買収や海外展開、積極的な中途採用などを進めていくなか、次第に多様な文化・価値観が混じり合うようになり、5-6年ほど前から経営陣を含む社内メンバーの温度差が顕在化してきたのだという。

「例えば、当時は『アジアNo.1』という言葉を掲げていましたが、日本国内を担当するメンバーからすると、やはりアジアの前に日本市場と向き合いたいという思いがあります。このような社内メンバーの意識の違いを是正するため、ミッションとバリューを明確化しなければならないという課題感は当時から社内にありました。そして創業20周年を機に、本格的にミッションとバリューの策定に取り組んでいくことにしたのです」(水谷氏)

経営メンバーで何度も議論を重ねて策定したミッション

企業を船に例えると、ミッションは船が目指している目的地、バリューは乗組員の行動指針と言えるだろう。そこでブイキューブでは、経営陣を中心にミッションを、従業員を中心にバリューを決めていく方針をとった。

まずは、ミッション決定までの流れをみていこう。

第1回目の会議では、そもそも「ミッション」と「バリュー」とは何か、というところからブレインストーミングを始め、社長の間下氏がインタビューで答えていた内容や創業当初からの思いなどを整理して、ホワイトボードに言葉を並べていったという。

そこから共通項やキーワードとなる言葉をピックアップしていき、一覧できる表にまとめ、さらに議論を深めていくという手続きを繰り返した。

水谷氏は「社長は『アジアNo.1』という目標を、副社長は国内のお客様を意識した『ソリューションプロバイダ』というキーワードを、CTOはテックカンパニーとしての視点を入れたいといったように、メンバーによってそれぞれ方向性や粒度が大きく異なっていました。こうした意識の違いをまとめていくのは非常に大変でした」と、その苦労を振り返る。

言葉が違う理由は、見ている「深さ」や「角度」にあり

第1回目の会議が開催されたのは、2018年8月。ほぼ毎週集まって議論していたものの、これといった決め手がない状態が続き、そこから20周年当日となる10月16日の直前まで話し合いは行われた。最終的には合宿を設け、そこでじっくりと議論を深めていったという。

「合宿を実施した段階では、キーワードはある程度絞られていましたが、決め手に欠ける状態でした。皆、同じ方向は向いているものの、見ている深さや角度が異なっていたために議論が進展していかなかったのだと思います。したがって、どの程度の粒度で言葉に落とし込んでいくかという点が重要でした。メンバーが潜在的に持っていた考えを抽象化したり具体化したりしていく作業を何度も繰り返していったんです」(水谷氏)

最終的にたどり着いたのは、自社の採用サイトで以前から使用していた「Even」という言葉だった。

このEvenというキーワードに肉付けする形で、ミッション「Evenな社会の実現 ~すべての人が平等に機会を得られる社会の実現~」は完成した。距離や時間的な制約があるためにさまざまな機会が均等に得られないという社会課題を、ブイキューブのサービスを使って解決したいという思いが込められている。

水谷氏は決め手について、「『行き着く先にあるのはこの世界観なんじゃないか』とメンバー皆が共感したことでした」と説明する。コミュニケーションに重きを置いている案も多くあったが、地方出身メンバーや海外メンバーなども社内に多くいるなか、社内外の両面から見てバランスのよい言葉であったのだという。

ミッションを言語化することによるメリットは、組織の向かう先が明確になることだけではない。議論を何度も重ねることで、お互いの理解が深まり、チームとしての強固な関係ができあがったことも良かった点のひとつにあると水谷氏は振り返っている。

従業員自らの手でバリューをつくりあげる

バリューの策定は、従業員自らの手で作り上げていくプロセスを重視した。

国内の従業員約200名にアンケート調査を行い、案を募るところからスタート。そしてアンケートの結果をもとに、ワークショップを複数回実施した。ワークショップは1回あたり2時間程度で、参加は自由だ。営業部門、開発部門、管理部門、マーケティング部門、経営企画部門など、さまざまな職種のメンバーが毎回20名前後集まって議論を行った。

「新しいバリューに対する期待感が伴っているので、場の雰囲気は非常に良かったです。中途採用のスタッフやグループに加わったばかりのスタッフも参加してくれたのは嬉しかったですね。Web会議ツールを使って大阪オフィスとも同時に話し合いを行いました。違う文化や価値観をもつ人たちが混じり合うなか、ワークショップを通じて共通点や異なる点を可視化していった形です」(今村氏)

従業員から出た言葉を集めて、さらに言葉をつくっていく――このプロセスを繰り返すことで、ひとつの言葉に凝縮されていくという仮説のもと、アンケートを読み込み、すべてのワークショップに参加していた今村氏がバリューの原案をまとめた。そして、経営陣を含むマネジメントメンバーで最終調整を行い、以下の言葉に行き着いた。

To be “The One”
~社会にとってかけがえのない存在であるために~

「次のあたりまえをつくる」 - “Next ATARIMAE”
「自分らしく個が輝ける会社」 - “Stay Gold”
「だれかの幸せをつくる」 - “Make Happiness”

「『次のあたりまえをつくる』という言葉は、技術本部のシステムエンジニアから出てきたものです。自身もテレワークを実践している社員でしたので、新しい働き方を当たり前にしていきたいという意識が強くあったのでしょう。”ATARIMAE”とローマ字表記にしているのは、ぴったりの英語がなく、ならば海外の人にも特別な言葉として理解してもらいたいという思いを反映させています。

一方で、”Stay Gold”は英語が先にあって、それに合うように『自分らしく個が輝ける会社』という言葉が出てきた形です。従業員の願望を言葉に落とし込んでいるものなので、この言葉をキーにして従業員は次の行動につなげていくことができます。

3つめはもともと”Be Happy”という案でしたが、その案では自分たちのことしか見えていないような印象があったので、”Make Happiness”とすることで、世の中へ貢献していきたいという思いが伝わるようにしました」(今村氏)

「これってバリューにあってますかね? 」と社員が自らの行動を省みるように

水谷氏が「自分の行動に対して『これって”Stay Gold”になってますかね?』といったようなコメントが社員から出てくるようになりました。ネタ的に使っている人もいますが、職種を超えた共通の話題があるのは良いことです。作ってよかったと感じていますね」と評価するように、バリューを新たにしたことで、ブイキューブの社内ではさっそく良い影響が現れはじめている。

今後の課題は、ミッションとバリューを社内にさらに浸透させていくことだ。そのために、ワークショップやコンテストの開催、評価基準への反映など、定着を図るための施策を打っていくという。