Blue Prismは2月27日、「RPA・デジタルワークフォースカンファレンス2019」を都内にて開催した。経営層はもとより、業務部門/IT部門、バックオフィス部門まで、RPA導入に関心を抱く全ての層を対象にした同カンファレンスでは、Blue Prismが考えるRPA活用のあるべき姿が語られたほか、RPA導入に取り組む企業の事例が多数紹介された。
そのなかから本稿では、2017年からRPA導入の検討を開始し、2018年4月~12月で100個超のロボットを開発、現在進行系で取り組みを進める楽天の事例講演の模様をレポートする。
付加価値の高いビジネスにシフトするために
創業から22年、大型ECサイト「楽天市場」の運営を中心に70以上のサービス事業を展開する楽天では、共通のユーザーID「楽天会員」をハブに複数のサービスを結び付け、独自の経済圏「楽天エコシステム」を形成している。ユーザーから見れば、エコシステム内のさまざまなサービスを共通のIDで利用できる利便性があり、運営的には、あるサービスで貯めたポイントをエコシステム内の別のサービスで使うといった継続的・回遊的な利用を促進できる仕組みだ。
登壇した楽天 インフォメーションサービス統括部 シニアマネージャー 内藤 しのぶ氏は、「同じ経済圏を共有しているので、成功事例の横展開や事業を越えたコラボレーションが容易」だとした上で、「各事業部にITエンジニアが分散していることもRPA導入に有利に働いている」と説明する。
楽天がRPA導入に踏み切った背景には、2016年2月に発表した中期経営戦略「Vision2020」がある。売上と収益の持続的成長を目指す同戦略のなかで、生産性向上に向けた取り組みの一環として、RPAやAIといった新しいテクノロジーを活用し、より付加価値の高いビジネスにシフトしていこうという機運が生まれたのだ。
「まずは2017年の初めごろからテクノロジー部門の有志で勉強を始めました。各部門で使ってみて使用感を見ていたのですが、進捗がなく、それならばコーポレート情報技術部としてまとめたほうがよいのではないかということで、テクノロジーの観点からPoCを実施してみました」(内藤氏)
その後、11月頃にツールを選定し、RPA推進組織を立ち上げて本格的な取り組みが開始された。2018年初頭には、CoE(Center of Excellence)の会議でRPAの概要や試用感、事前に理解しておいてほしいことについて説明すると共に、生産性をリードする人々を対象とした説明会を全社的に開催したという。
「RPAを”落ちないシステム”のように思っている人もいるので、あくまでも『デジタルレイバー』にすぎないことや、利用するからといって人が必要なくなるわけではないこと、より価値があるところに人員を配置していこうというお話をしました」(内藤氏)
製品の選定理由と2軸で展開する開発モデル
製品の選定にあたっては、メールの受信をトリガーとしてExcelを操作する作業と、Web上のツールから情報を登録する作業をテストケースとして、「Blue Prism」を含む3つの製品の基本機能を比較したという。
「クライアント型はシングルサインオンができないことがネックとなりました。残りの2つのサーバ型製品は機能的には大差なかったものの、保守性とコスト面でBlue Prismが良いということになりました」(内藤氏)
この判断には、デバッグの容易さからエンジニアがBlue Prismを推したことが効いたという。また、最初からプラットフォームとして展開することを想定していたため、RPAを導入する全ての部署に開発環境を用意したいと考えていたところに、Blue Prismのライセンス体系がマッチしたことも決定要因の1つとなった。
ロボットの開発に関しては、コーポレート情報技術部で開発を請け負う「CoEモデル」と、各事業部で自由につくってもらう「プラットフォーム利用開発モデル」の2パターンを展開している。ただし、後者では初めにある程度の標準やルールを定め、トレーニングを受けた人だけに開発を許可するほか、開発後のリリース/運用はコーポレート情報技術部で管理する体制となっている。
サービスローンチは2018年4月。そこから正式に組織を立ち上げて今に至る。初年度100ロボットの開発を目指して進められた取り組みは、同年12月までの間に101個のロボットをリリースした。
「本来的には、どれだけの工数を削減できたのかをKPIにしたかったのですが、どのくらい削減できるものなのかが全く予想がつきませんでした。そこで、初年度なので数を稼ぐほうがよいのではないかということで、まずは100個開発しようということになりました。現状では、CIOにも作成したロボットの個数だけをレポートしています」(内藤氏)
101個の内訳はCoEモデルによるものが4割、プラットフォーム利用開発モデルによるものが6割。これらのロボットで1300時間/月が削減されたとしており、「101個の割には良い結果になったのではないかと思う」(内藤氏)という。
とは言え、プロジェクトはトントン拍子に進んだわけではない。