誰でもAIを活用できる世界を――「AIの民主化」を掲げ、機械学習の自動化プラットフォーム「DataRobot」を提供するDataRobot社は11月27日、年次カンファレンス「AI Experience 2018 Tokyo」を都内にて開催した。

同カンファレンスでは、「ここまで来たAIの民主化」を副題に、製造や物流、アパレルなどさまざまな業界のユーザー企業によるAI活用事例セッションを実施。今、ビジネスで活用されているAIの実情に参加者の熱い視線が集まっていた。

そのなかから、本稿では、ヤマトホールディングス デジタルイノベーション推進室 室長 奥住智洋氏によるセッション「ヤマトのデジタルトランスフォーメーションの取り組み」の模様をレポートする。

ヤマトが取り組むデジタルイノベーション対応

創立1919年、61のグループ会社から成るヤマトグループは、2019年、100周年を迎える。中核を担うヤマト運輸は、従業員は20万人超、約7800の営業所を構え、個人会員は2000万人、法人会員は90万件を突破するという。これらのリソースから生まれるビッグデータが、グループの”武器”となる。

昨今は商社や大手ゼネコンが物流センターを構築したり、通販会社やコンビニエンスストアなどが自前の配達網を構築したりすることで、他社との差別化を図る動きが活発化しつつある。ヤマト運輸にとって、これまでは顧客やパートナーだった企業が競合になり得るわけだ。

また、ITの進化について「先端技術、ドローン、ブロックチェーン、顔像認識といった技術はロジスティクス領域にも非常に親和性が高く、取り組み方によって強力な味方にも脅威にもなると思っている」と奥住氏は見解を示す。

ヤマトホールディングス デジタルイノベーション推進室 室長 奥住智洋氏

こういった現状を踏まえて、ヤマトホールディングスは昨年9月、中期経営計画「KAIKAKU 2019 for NEXT100」を発表している。働き方改革を経営の中心に据え、3つの構造改革を軸にした同計画では、近年急速に進むデジタルイノベーションへの対応、ガバナンスの強化を宣言している(参考記事:『“次の100年”を考えるヤマト運輸は働き方改革で何を重視するのか?』)。

デジタルイノベーションへの対応においては、「R&D”+D”機能」の強化で挑む。これを牽引するのが、奥住氏が率いるデジタルイノベーション推進室だ。R&D(Research&Development)はいわゆる研究開発、”+D”の「D」は「Disuruptive(破壊的な)」の頭文字である。

2017年4月に設立されたデジタルイノベーション推進室では、「ビッグデータの構築/活用」「コーポレートベンチャリングの推進」「ヤマトグループにとってディスラプティブなビジネスモデルの早期察知/対応策定」の3つの戦略の下、グループに高い品質やスピード、生産性をもたらすデジタルビジネスモデルを創出する活動を行っている。

その具体例の1つが、集配状況を可視化する「NEKOシステム」だ。同システムでは、セールスドライバーが携行する決済端末やモバイルプリンタ、携帯電話、ハンディスキャナ、タブレット端末などを活用し、業務効率化と集荷/配達のサービス品質向上につなげている。

朝、セールスドライバーが担当する荷物の伝票をスキャンすると、住所氏名、時間指定などの情報や経路情報、安全情報を考慮した経路分析が行われ、タブレット上に集配順序が表示される。ドライバーはそれを確認しながら荷物を配達したり、進捗状況を管理したりする仕組みだ。

初代となる第1次NEKOシステムが誕生したのは45年前のこと。もともとは路線貨物の運賃計算システムとして開発され、続く第2次NEKOシステム(1980年)から宅急便システムとしての構築がスタートした。1985年には、セールスドライバーに専用携帯端末を配備し、軒先での情報入力を可能にしたほか、1993年の第4次NEKOシステムではICカードを導入、1999年にはWindows環境を整備するなど、次々に新しいテクノロジーを取り入れてきた。

当初は業務効率化を目的に開発されていたが、第6次NEKOシステム(2005年)からは顧客視点に立った開発へと転換。2016年から利用される現行システムは8代目となる。宅急便事業を支える基幹システムとして、常に進化を続けているのだ。