ガートナー ジャパンは11月12日~14日、「Gartner Symposium/ITxpo 2018」を都内にて開催した。本稿では、ガートナー バイス プレジデント アナリスト 松本良之氏による講演「ゼロからつくるデジタル/IT戦略」の模様をレポートする。

IT戦略「3つのシナリオ」

GE、AON、ナガセ(東進ハイスクール)といったユーザー企業でCIOを務め、企業のIT戦略の立案や実行に携わってきた松本氏。ガートナーにおいては、CIOの役割やデジタル化によるビジネス革新、IT組織改革を中心にリサーチと提言を行っている。そんな松本氏は講演を次のように切り出した。

「アナリストとしてお客様の前で必ずする質問があります。Amazonテストと呼んでいます。それは、『もしAmazonがあなたの会社の競合になったから勝てますか』というもの。この質問に『勝てます』と答える担当者はほとんどいません。若手になればなるほどこう言います。『勝てるわけがないです。もし競合になったら当社は終わりです』と」

ガートナー バイス プレジデント アナリスト 松本良之氏

松本氏によると、このAmazonテストが持つ意味は「デジタルが企業にとっての根幹になってきたことをどう認識するか」だという。

「2008年の経済危機以降、企業価値の評価基準は変わりました。売上、利益、規模による企業価値は認められなくなり、自社でデジタル技術やプラットフォームを持つ、または、活用する企業の価値が大きく評価されるようになったのです。つまり現在、企業価値の中核は、情報とテクノロジーなのです」(同氏)

そこで重要になるのがIT戦略だ。ガートナーの調査では、文書化されたIT戦略が存在する企業は全体の6割にとどまっている。また、「IT戦略を担う部門の範囲はどこまでか」を問うと、約6割が「IT部門のみ」と答える。情報とテクノロジーがビジネスの中核であるにもかかわらず、そのためのIT戦略が存在せず、存在してもIT部門だけが対象になっているということだ。

松本氏によると、IT戦略にはビジネスとの関係性において3つのシナリオがある。シナリオ1は、情報/テクノロジー戦略をビジネス戦略に含めるもの。ビジネス戦略が文書化されていないか明確に表明されていない場合に利用する。シナリオ2は情報/テクノロジー戦略とビジネス戦略を緊密に連携させるもの。ビジネス戦略が情報とテクノロジーに十分に対応していない場合に利用する。

目指すべきはシナリオ3の「ビジネス戦略が唯一の戦略である」というかたちだ。ビジネス戦略のなかで、ビジネスを成功させるために情報とテクノロジーをどのように活用するかが当然のこととして組み込まれている。「情報とテクノロジーを活用したビジネス戦略こそが企業を成長させるのです」と松本氏は強調した。