DataRobot Japanは11月27日、2回目となる年次カンファレンス「AI Experience 2018 Tokyo」を開催した。
同イベントの最後を飾ったのは、元大阪ガスで現在は滋賀大学にてデータサイエンス学部 教授 兼 データサイエンス教育研究センター副センター長として教鞭をとる河本薫氏と、日本航空 Web販売部1to1マーケティンググループ アシスタントマネージャーの渋谷直正氏によるパネルディスカッションである。両氏とも、「データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー」受賞経験のあるトップデータサイエンティストだ。
同ディスカッションでは、DataRobot Japan チーフデータサイエンティスト シバタアキラ氏が聞き手を務めるなか、両氏が考える「AI/機械学習の今後」が語られた。
データサイエンティスト不足の正体は「ミスマッチ」
シバタ氏:最初のテーマは、データサイエンティスト不足が叫ばれている現状についてどう見ているかです。
河本氏:製造業では自社にいる理系の大学院卒業生に猛烈な勢いで社内教育をしていますが、せっかく育てた社員が会社を辞めていると聞いています。人材不足よりも、データ分析の勉強した人と業務改革を行いたいミドル層との間にミスマッチが起きていることを問題と認識しています。
渋谷氏:来年の新卒採用で「数理IT系」という新しい枠を作ったぐらいで、不足していることについては同意です。データサイエンティストと言えば、一般には統計解析やモデリングができる人をイメージするでしょう。でも、河本さんが著書で主張しているように、事業会社が必要としているデータサイエンティストは、「課題を解く力」としてのモデリングに加え、前後の「課題を見つける力」「分析結果を現場に使わせる力」もそろえた人。そんな人が不足していると感じます。
シバタ氏:「どんなデータサイエンティストか」を考えないといけないということですね。
渋谷氏:事業会社がAIでビジネス成果を出すには、エンジニアリングに特化する必要はありません。AIを使える人が広い意味でのデータサイエンティストだと考えています。
河本氏:DataRobotを初めて見たとき、日本企業を救うというインスピレーションを感じたのです。機械学習を自動化する機能も素晴らしいが、インプットとアウトプットのインタフェースが素晴らしい。データ分析の専門知識を持っていない人でも使え、ビジネス課題の解決という本分に専念できるツールが初めて出てきたと思いました。
渋谷氏:DataRobotの存在を知ったのは河本さんに教えてもらったことがきっかけです。モデリングに詳しくなくてもわかりやすいし、モデリングが特権ではなくなるという予感がありました。
ゴールは「分析の内製化」
シバタ氏:技術だけ詳しい人は早晩珍重されなくなる。ビジネスインパクトを出せる人や、課題解決をする人がデータサイエンティストというわけですね。では、データの活用方法、人材育成はどう変わっていくと思いますか。
渋谷氏:事業会社は社員一人一人が分析できる「分析の内製化」を進めるべきだと思います。今までは外部のコンサルタントにやってもらっていたかもしれませんが、自分でやれるならやったほうがいいです。その会社のデータに詳しいのは社内の人。普段使っているデータを分析するだけでも価値があるはずです。みんながやれば日本企業全体がデータドリブンになりますし、それがAIの民主化の目指すべき方向性だと思います。
河本氏:大学生を育てる立場から回答すると、大学生が勉強する目的は、頭の中に数学的素地を作ることにあります。いやいやでもその素地を作れば、新しい分析手法を組み合わせて使うことができるでしょう。
一方、方法論の勉強だけではダメだとも考えています。実際に事業会社に入社した際に求められるのは課題発見力です。正解がある問題を正しく解くための方法論にこだわるのではなく、自分で問題を作ることができるような教育が必要だと思います。
シバタ氏:河本さんは多くの企業にアドバイスをしているとも聞いています。外部の人だからこそ提供できることはありませんか。
河本氏:私が企業に頼まれるのは、「内製化していきたいので助けてほしい」ということです。社員教育や何が足りないかのアドバイスが中心なのです。
渋谷氏:さっき話した内製化はゴールです。最初の段階では何をやっていいかがわからないので、外部の支援が必要だと思いますよ。
シバタ氏:外に出せない重要なデータもありますしね。
渋谷氏:外部の人と仕事をするときの問題は、データの中身を理解してもらうのに時間がかかることです。目的変数を何にするか一つをとっても時間がかかる。コミュニケーションの労力がバカにならないのです。
河本氏:前職時代の経験から言うと、自分たちだけで解けない難しい問題を外に依頼することは良いと思います。でも丸投げをしてはいけない。現場の人に使ってもらうには(課題解決するのは)社員でないといけないからです。