アイ・ティ・アールは10月4日、都内にて年次イベント「IT Trend 2018」を開催した。同社アナリストとIT業界のキーパーソンらが”一歩先”のIT戦略について提言する同イベントの特別セッションには、サイボウズにてビジネスマーケティング本部 シニアコンサルタントを務める広井邦彦氏が登壇。「デジタルトランスフォーメーション推進における企業IT基盤と役割の再編」と題し、3年先を見据えた次世代IT基盤の再構築に向け、「非中央集権志向パラダイム」に基づいたIT基盤の在り方について解説した。

DXの本質とIT部門の役割

広井氏は、独立系SIerで業務システム開発に従事した後、ユーザー企業の情報システム部門に在籍。プロジェクトマネージャ、情報システム部長、IT戦略企画担当を経て、2013年からサイボウズのビジネスマーケティング本部でシニアコンサルタントを務める。担当領域は、「次世代開発基盤」と「IT改革に関するリサーチ」だ。

広井氏はまず、昨今のデジタルトランスフォーメーション(DX)の流行を受けて、企業のIT投資意欲はかつてないほど旺盛だと指摘。ただし、経済全体として見ると、リーマンショック以降、日本企業は利益が出せる体質になったものの売上は伸びていない現状がある。そんななか、DXに求められているのは、企業としてどう売上を伸ばしていくかという「成長」への期待だと広井氏は語る。

「本来、DXの目的領域は広いものです。破壊的なイノベーションやデジタルビジネスの創出といった提供価値の革新性が大きい目的が注目されますが、既存ビジネスの変革や事業基盤の改革といった革新性が小さい領域も含まれています。特に、事業基盤の改革は全てのDXの目的を支えるベースとなるものです。DXの目的を多面的にとらえ、バランス良く施策を実施していくことが求められます」(広井氏)

サイボウズ ビジネスマーケティング本部 シニアコンサルタント 広井邦彦氏

また、DXは成功率が0.3%にも満たない”千三つ”の世界であり、推進するプロセスとしては、ちょっとしたアイデアをすばやく試せること、PoC、プロトタイピングを早いサイクルで反復していくことが求められる。そのため直接的なテクノロジーだけでなく、「企業風土」「IT基盤」「推進体制」といったDXを支える事業基盤が重要になる。

「PoCばかりで事業化できない、デジタル疲れするといった批判もあります。しかし、DXの推進にはトライし続ける以外の選択肢はありません。重要なのは一つ一つのトライのハードル(コスト、時間、意思決定プロセス)を下げて、トライを反復しやすくすること。まず打数を増やす努力をし、打率を上げるのはその後です」(広井氏)

つまり、DXの本質とは、ビジネスモデルの変革を継続的に実施し、失敗を恐れずにトライを反復できる組織に変化(トランスフォーメーション)することにある。ではそのためにIT部門は何をするべきか。そこで、広井氏が強く訴えるのが「IT部門は基盤(アーキテクチャ)の整備にこそ注力すべき」ということだ。

「DXの攻めと守りのいずれにおいても、アジリティの高いIT基盤構築は必須です。むしろIT部門はデジタル化のためのIT基盤整備という役割を明確化したほうがいいと考えます。そこでは、コスト削減一辺倒という意識を、成長のための投資という意識に切り替えることが重要です」(広井氏)