デジタルマーケティングは、サービス提供者と顧客の関係性を大きく変えた。

効果測定が難しかったマス広告と異なり、デジタル世界では全てが可視化される。ユーザーがどんなキーワードで検索してWebサイトにたどり着いたのか、そこからどんな行動を取り、最終的にコンバージョンしたのか/しなかったのかまで追いかけることができるのだ。こうしたユーザー行動「ジャーニー」ごとに適切なコミュニケーションを取ることで、より優れた顧客体験を提供できるのではないか。

そうした考え方を数年前から取り入れているのが航空会社の全日本空輸(以下、ANA)である。9月4日、5日に開催された「Adobe Symposium 2018」では、ANAから永山 裕氏が登壇。「ANAが考えるデジタルマーケティングから顧客体験向上への変革」と題し、同社が考えるデジタルマーケティングの在り方と顧客体験向上へ向けての施策が語られた。

目標は「顧客との一貫したコミュニケーション」

ANAの屋台骨は国内線だ。もっともここ数年は売上/旅客数ともに横ばいで、伸びているのはむしろ国際線であり、売上規模は国内線に迫る勢いとなっている。

登壇した永山氏によると、海外マーケットを重要視し始めた2014年頃、デジタルマーケティングの本格的な検討が始まったという。

きっかけはWebサイトのリニューアルだった。よりパーソナライズされたWebサイトにするため、ツールや仕組みづくりを検討。Adobeツールを活用したデルタ航空のデジタルマーケティング事例などを知り、「これは面白いなと思った」という。

全日本空輸 永山 裕氏

デジタルマーケティングチームはAdobe本社が位置する米国カリフォルニア州サンノゼへと飛んだ。もともとANAでは「Adobe Analytics」を活用しており、そこで取得したデータがマーケティングに役立つことに気づいたのである。

2014年から2017年にかけて、ANAは「Adobe Audience Manager」や「Adobe Campaign」、「Adobe Media Manager」、「Adobe Experience Manager」の導入を進めていった。Webサイトをパーソナライズし、顧客ごとに適切な情報を届けるためである。

同社が目指すデジタルマーケティングとは「顧客との一貫したコミュニケーション」を実現することだ。Adobe製品で統一することで、各ツールのデータに一貫性を持たせることができる。「お客様とのコミュニケーションを考えるとデータは一元管理されるべき」と永山氏は強調する。

デジタルマーケティングに注力するため、組織体系も変えた。「ペイド」「オウンド」「アーンド」のトリプルメディアを一元管理するための部署を設立し、機能ではなくマーケット別にコミュニケーションするための体制を整えた。

具体的には、2016年度までは「宣伝」と「デジタルマーケティング」の2つを軸とし、日本とグローバルのマーケットをそれぞれ担当していたのだが、2017年度からは「日本」「グローバル」というマーケットを軸とし、宣伝機能とデジタルマーケティングを統合した形だ。

2017年度を境に行われた組織変革

実際にやるべき仕事はそれほど変わっていないが、「自分の仕事が何につながっているのか、一つ上のレイヤーのことまで考えるようになった」のだという。