アドビ システムズ(以降、アドビ)は9月3日~5日、都内にて「Adobe Symposium 2018」を開催した。今年で9回目となる同カンファレンスでは「顧客体験をビジネスの中心に(Make Experience Your Business)」をテーマに、アドビの最新テクノロジーをはじめ、顧客体験向上に取り組む先進企業の事例やパートナーの取り組みが数多く紹介された。本稿では、4日に行われた基調講演のハイライトをお届けする。

企業はユニークなCXを提供しなくてはならない

基調講演の最初に登壇したのは、この4月から新たにアドビ日本法人の代表取締役に着任したジェームズ・マクリディ氏である。テーマに掲げた「Experience Business」とは、クリエイティビティとインテリジェンスを組み合わせ、インパクトの高い顧客体験(CX)を提供することを指す。同氏曰く、国内500社に対して行った調査「Adobe Digital Survey 2018」によると、88%がより良いCXを提供したいと考えているが、具体的な施策に着手している企業は20%に留まるのだという。

アドビ システムズ 代表取締役 ジェームズ・マクリディ氏

今、世界的にユニークなCXを提供することの重要性が高まっている。もはや商品やサービスそのものではなく、CXが競合との差別化の要素であるためだ。消費者としての経験を振り返ってみても、商品やサービスを購入したときにどんな気持ちになるかでブランドを選ぶことが多いのではないだろうか。

マクリディ氏は、アドビのミッションは「世界を動かすデジタル体験を提供すること」だとし、「Adobe Creative Cloud」「Adobe Document Cloud」「Adobe Experience Cloud」という3つのプラットフォームの提供を通して、企業のビジネス変革をサポートしたいと力を込めて語った。

機械学習をマーケティングキャンペーンに使う放送事業者Sky

今回のカンファレンンスの特別ゲストとして登場したのは、英国大手放送事業者Sky デジタル アナリティクス、データ戦略担当 ロブ・マクラフリン氏である。同社は欧州最大のエンターテインメント&コミュニケーション事業者であり、英国のほか、アイルランド、ドイツ、オーストリア、イタリアの5カ国で2,200万人のユーザーを抱える。

英国大手放送事業者Sky デジタル アナリティクス、データ戦略担当 ロブ・マクラフリン氏

Skyは約1年半前にAdobe Experience Cloudを導入し、One-to-Oneのパーソナライゼーションを実現するプロジェクトに挑戦した。マクラフリン氏は「パーソナライズした体験は、Web、モバイルアプリ、メディア、コンタクトセンターなど、お客様とのあらゆる接点から提供する必要があります。そして、一度お客様と接点を持てば、即座にお客様を認識できなければなりません」と語る。

つまり、重要なのはリアルタイムの意思決定である。だが、ユーザー数が2,200万人ともなれば、人間だけでは即時に意思決定を行い、それぞれのユーザーに適切に対応することは難しい。

そこでSkyが活用したのは、AIの力だ。「AIと機械学習を用いて、One-to-Oneでプロダクトのレコメンデーションができるようになった」とマクラフリン氏は説明する。以前は世帯単位での分析しかできていなかったが、Adobeのソリューションを導入したことでオムニチャネルでユーザー個人の行動を分析できるようになった。その結果、ユーザーがどんなスポーツやチームを好むかを理解し、よりパーソナライズしたキャンペーンを展開することで、Sky Sportsの契約率を57%改善できたのだという。

今後のSkyでは、この取り組みを映画などの他の分野にも広げ、よりユーザー個人の感情を揺さぶる体験を提供していくことを視野に入れる。

「私のチームのメンバーは機械学習を活用しています。博士号を持つデータサイエンティストがいるわけではありませんが、マーケターとして機械学習を活用し、データでビジネスの成功に貢献していきたいと思います」(マクラフリン氏)