ECのイメージが強い楽天だが、実は世界中に研究組織を展開しており、さまざまな研究開発を行っている。
その中心となっている組織が楽天技術研究所だ。世界中に研究員を擁し、最先端のテクノロジーを研究する同組織には、他社のR&D組織にはないいくつものユニークな特徴があるという。
楽天技術研究所はいかなる組織なのか。そして世の中にどんなインパクトを与えようとしているのか。
1日に開催された合同研究発表カンファレンス・CCSE(Conference on Computer Science for Enterprise)に同研究所代表の森正弥氏が登壇。楽天の取り組みを余すところなく語った。
ビジネスに直結した成果を出す「楽天技術研究所」
楽天技術研究所は、楽天の技術とは別の独立した戦略的R&D組織であり、世界5カ国に拠点を展開。140名以上の研究者が所属している。うち8割以上が日本以外の国籍だ。
研究領域は大きく分けて3つ。「パワー」「インテリジェンス」「リアリティ」である。パワーとはプログラミング言語やロボティクス領域。
インテリジェンスとはデータの利活用や機械学習、ディープラーニング。そしてリアリティとはARやVRなどの技術を始めユーザーエクスペリエンス全般を指している。
楽天本体のビジネスから独立した組織とはいうものの、昨年は66の研究プロジェクトが誕生。うち42の研究が何らかのビジネス成果を創出できたのだという。
近年のトレンドであるドローンを活用したデリバリーサービスや、コンピュータビジョンを駆使したミックスド・リアリティにも挑戦。FCバルセロナと楽天カフェでコラボレーションするなど、ユニークな取り組みも多数行っている。
また、シリコンバレーにも拠点を設け、経済的価値のあるコンテンツを生み出すクリエイティブAIの研究を推進。さらに楽天生命技術ラボでは生命保険分野へのAIの応用を研究しており、その領域は多岐にわたっているのだ。
研究成果がなかなかビジネスに結びつかない企業も多い中、なぜ楽天はビジネスに直結した成果が出せているのか。そこには楽天ならではのアプローチがあるという。
「研究者だけで研究計画を作るのではなく、研究メンバーとビジネスサイドのメンバーが最初から一緒に研究計画を作ることに大きな意味があります。研究者はビジネスサイドの課題を把握できますし、ビジネスサイドも研究について学ぶことができるのです」
楽天技術研究所のコンセプトは、”データを中心において現場の課題を議論していく”というものだ。その背景には、インターネットとモバイルデバイス、そしてソーシャルサービスなどの普及により、ユーザーのリーチ力がグローバル化している現状があるという。
「たとえば」と森氏はスイスの鞄工房の例を挙げる。「先日、スイスの小さな工房で作っている鞄をスマホから買ったのですが、彼らは日本語が話せません。ところが、鞄自体は香港の倉庫から数日で届いたんですね。売り手も買い手も、簡単にグローバルにリーチできるようになっているのです」
こういった変化に対応できない企業には、ユーザーを理解することは難しい。もはや以前のビジネス常識は通用せず、経験が役に立たない時代になっているのだと森氏は説明する。
気をつけないといけないのは、現在の状況でさえも大きな変化の流れの一部であるということだ。最新のテクノロジーの中でビジネスをしている若い世代も、いずれは歳を重ねていく。そうなったとき、やはり同じように若い頃のビジネス経験が通用しなくなっている可能性も大いに有り得るのだ。
では、経験が役に立たなくなるほど変化の激しい時代を生きる我々は何を頼りにすればいいのか。
森氏によれば、それこそが「データ」である。